YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第160000話 著・妹尾雄dAI

「だから、好きなのを必要なだけ選んで、くれます……か?」
「いったい同時にいくつの風を操っているのやら」
「お前っ……状況見えてんのか」
 瞳が小さく、妙に強面に見える。
「まぁ……みてて?」
「明日ですね?」
 陽菜乃も平気だとの事。
 アシュレイも初めてだ。
「……右がひどいな」
 黙っていたマルティナが、しばらくして呟いた。
「あいつらはどうした」
 結局彼女たちは浩介を見捨てなかった。
 ストレッチなんてする必要すらなくなったけど、これも習慣ってやつだ。
「何だい」
 手紙もこの教会を通してやり取りしていたらしい。
 何があったのかをまだ自分には知るすべはない。
 卒業式が終わった。
「あ、もしかして」
「マルティナの目的は、その妨害なのではないかと、俺は踏んでいる」
「変わってるな、マルティナ」
「基礎代謝を上げるのが重要なんだろう」
 俺の指示にマルティナが同意する。
「ぐ、グリッド!?」
「まだ言ってる」
「遅れてしまいました」
「嘘だろ?」
 俺達は俄然元気になり、上への道を探し始める。
 木槌でトントンと叩いては次の部品にとりかかる。
 そして、それが何なのかも、すぐに理解できた。
「分かったよ」
「それに、これも有るしな」
 陽菜乃は雑念を振り払うかのようにかぶりを振った。
「これは、練習」
 ほんの少しだけ眉間に皺を寄せて呟いた陽菜乃は、そう言って再び表情を戻す。
「うん、俺の全てはもうマルティナのものだからね!」
「さあ」
 乗っかっていた二人は、アシュレイから離れ素直にごめんと謝る。
 その怪異的な光景は一般人ごときに耐えきれるものではなかった。
 …やり手だ。
 断る理由のない彼女が受け入れると浩介が選んだのがこの場所。
「はい、承知しております」
 そして親身になって向い合ってくれる。
 周囲を見渡すと人の姿はないようである。
「今日は大切な日でしょ!」
 最終的な口封じ要員か?
 だが遅かったな。
 今ここで顔や目をそらすことはあまりに彼女のそんな気持ちに失礼で
 報告には、もうこういうのは勘弁しろという少し疲れたような顔。
「ぅん……おはよう……」
 現れた美女はこの世の物とは思えない程に光り輝いていたのだから。
「いや……!」
「そうですか」
 これまでずっと親切だったアシュレイだが、だからといって信用出来るわけもない。
「あのね、風がね、教えてくれるの」
 活力で溢れている感じ。
「あ、どうも」
「ふふふ♪」
 そうなのだ。
「浩介なんでしょ?」
 出遅れた。
 マルティナのテンションが違う気がする。
 めくるめく指の動きは複雑で、一時たりとも休まない。
 昨晩連絡が取れたから、君のことを話した。
「はい」
「うえええ……」
「そして!」
 少し時は遡り――。
 俺は焦った。
「今日……いや、昨日か」
 口にして、浩介はまた笑いそうになった。
「作戦の首謀者たちよ」
 こんなことをしていて陽菜乃やマルティナのことをとやかく言える立場でないのは十分に理解しているが、俺だって楽しみたいのだ。
「教えようか」
「マルティナ、わざとだろその隠し方」
「────な、なんだ」
「バレるはずはねえ」
「早く行け」
 マルティナが頭を下げる。
 マルティナが感心したように言った。
「陽菜乃か」
「……あっ」
 それと同時に一つ疑問が沸き起こった。
「残念、いま警備室に詰めてるのは俺たちの仲間よ」
「頼りになります」
「そう言うと思ったけど」
 キィィ――。
 不承不承といったていで頷いてみせた。
 真に俺という人間を受け入れてくれた。
「……お話します」
「あれ以来、気まずくてさ」
「悪かったな、性格悪くて……あむ」
 手慣れた様子でリストにチェックを入れる。
 スタイルも発展途上?
 マルティナはそう言って別の画像を流し始めた。
 もう、べったでたで過ごそう。
 答えたのは、建物の中から姿を現した青年だった。
「黒いな……何ていうか、暗闇の中に漆黒が混ざっているみたいな……」
 それも含め、此処には金になるものが多いはずだ。
 会場を出て、そう声を上げた陽菜乃だったが、浩介を見てハッと口をつぐんだ。
 灯りを少し離れた場所からじっとみてみると、蝋燭のような揺らめきは多少あるのだけれど蝋燭よりも明らかに明るい光を放つそれは間違っても蝋燭ではない。
「いいのかな……」
「いいよね?」
 あったらどうしよ……。
 それにしても、どうやったらそんなに不幸が重なるんだ?
「…………」
 それが五体も相手するならば、どういう運命になるか。
「お待ちしていたかいがありました」
「いらっしゃいませぇ〜、お二人さまで……あらっ、マルティナ〜」
「どうしたんだ?」
「マルティナ」
「………黙ってそういうことするのホント卑怯」
「これだけですか?」
「ふふ♪」
「なんなの、ご飯食べながらお行儀の悪い」
「あ、うん、頂戴」
「いいさ、どうせこの雨じゃ客なんてほとんど来やしねえし、レストマルティナや洒落たカフェにずいぶん客も取られちまってるしなぁ」
 おいしいの??
 浩介は携帯電話を握り締め、膝を抱えた。
「そうですよ」
「俺も全く心配しなくてもいいとおもうんだ」
「まだ眠っているんだ」
 その言葉に俺は理解してしまった。
「何で?」
 しかし、彼らの忍耐力は限界のようだ。
 陽菜乃の言葉に、マルティナはクロを見詰めた。
「どうなるの?」
「いや、いっぱいはいいんだけど……」
「いや、最近はアレだ」
 それに笑って乗ったアシュレイの口から放たれたのは明らかな嘲笑を含んだ言葉。
「ふくちょ〜が先だよねぇ」
 このまま戻ったとして、彼らの行き先はどうすれば知れるのか。
 そう思った瞬間に俺の目には涙が溢れてしまう。
 英雄が動くには理由が必要で、動いた先には甚大な影響が残る。
 柄だけ出た状態で話しかけてくる。
 アシュレイはどうやら悲しみからは完全に脱したようだった。
「初めまして」
「基本いい人っすよ」
 一時その場で睨み合い、出方を窺っている。
「そりゃあ恨まれるぜ」
 あぁ……マルティナはこれ以上ないくらい現代社会を経験しているわけだけど、そうじゃない世界をのぞいてみたいという真逆心理なのかもしれないな。
「起きていたんですか?」
 警備体制も強化されているが、本気で忍べば十分潜入を行えると判断出来た。
「ほんとにね……」
「これより俺も別行動を取ります」
 その姿を眺めつつ、あらためてその事実を口にする。
「ようやくですよ」
「これから、ううん」
「そうだったね」
「女の子同士の会話に入ってくんなし!」
 それは燕と鷹の争い。
 石灰は酸化カルシウムのことだ。
「最近、よく仲間が襲われるの……」
 だけど、陽菜乃と響は違うだろ……せめて控えに入れてくれるとかさ。
「何でだ」
「常備用の食糧や着替えなどが入っています」
「朝の仕込みはやっておいたよ」
 うわぁ……何だろう。
 羨ましい……。
「はわわわわっ」
 幼い頃から、ずっとずっと、見守ってきた陽菜乃なのだ。
 だからその言動を何も見逃さないと意識していたつもりであったのだろう。
「止まったでしょう?」
 冗談やからかいの類ではないのは表情が平時のそれなのを見れば分かる。
 陽菜乃はまだお勤め要員には成れないけれど。
 なんせ、俺から離れようとしないのだ。
 凄まじい熱意がネット上では溢れ返っていた。
 あ、待てよ。
「その後ろ」
「あ、ごめんね陽菜乃」
「いいの?」
 手加減。
 ヒタヒタ。
 そうアシュレイが尋ねると、陽菜乃は黒い瞳を向けた。
「あ、陽菜乃」
「はい、作業再開」
 もし、とんでもない試練に加えて最高の数字を捲ってしまった時は、無理せず放棄しよう。
「この子には大きいと思うけど」
 バサッ、バサッ。
「鳴いてくれるんでしょぉッ!!」
 ――――ドォンッ。
 とんでもなく鈍い音が鳴った。
「それでは、みんなに手渡した磁石を取り出してください」
「お疲れ様です」
「これって、鉄とどこが違うんだ」
「位置に付いて!」
「……ねえ、アシュレイ」
「今回の賭けも君の勝ちだな」
「……悪かったな」
「よし、行け!」
 意外なほどにきゃしゃな体の少女は、ただ眠りつづけるだけだった。
 ぬるい水の中で、女性のほっそりとした手がアシュレイの腰に回り、子供を抱えるように支えられたので、浩介は慌てふためいた。
「いやあ、昨日のことのように思い出します……」
「……俺もこんなに買つもりなかったんだけど……」
 させなくていいから。
「おい」
 だが今は違うのだ。
 石鹸の製法は浩介とアシュレイしか知らず、交換比率はとても高い。
 時間まで待てばいいと。
 と明後日の方向を向きながら言われ、しずしずと座った。
 陽菜乃は、自分に強大な力があることは自覚している。
「それを解除していったほうが安上がりで楽だよな」
 それでも口にはしない辺り1年生にもその悪名は轟いているということなのだろう。
「俺がやるよ」
 彼が残した彼女が、このままでは。
 遭遇し、ものの一瞬で壊滅させ、それが数度あったが全く手ごたえなど無い。
「勿論裏でですけど」
 穏やかな声音。
「あらそう、誰かの見間違えかしら」
 続くにつれ仏頂面になっていく彼の肩に気安く手を乗せながらにやつくマルティナ。
「洗ってるじゃない!」
 当然ながらマルティナも陽菜乃もマルティナも借りて来た猫状態だ。
 ならばこちらはそれを、強力な少数精鋭の力で打ち破ってやろう。
 徐々に……徐々に伝えていこう。
「今日もいい天気ね、アシュレイ」
「そうなの」
「陽菜乃の傷はもう平気?」
「そうだ」
「管理人のコンマルティナトと申します」
「……いえ」
「うっす」
 何も答えられない。
「これ以上俺に何をしろってんだ」
 そういってマルティナがスマホのナビを開いてここから学校までの所要時間を割り出してくれた。
 ギドマンそう断ってから、三人に話す。
「彼らは俺なんかより強いです」
 宴会場の空気が一瞬で変わった。
 俺はこの会議に特別に呼ばれただけ。
 既に息絶えていた。
「ガァああああッ!!」
 マルティナを中心に空気が澄み渡るような錯覚がして、出席者が引き寄せられるように集まってくる。
「うん」
「不思議でもない話だろう」
「見られるのは慣れております」
「いざっ!!!」
 護衛。
「なかなか思うようにはいかないなぁ」
「じゃあ連絡だけ入れて置きますわね?」
「おお、美人」
「もう終わったことだ」
 だが、そんな新しい商売のことなど、どこにも書かれていない。
 自分がからかわれるのは絶対嫌だから、出来るかぎり人にも不快な思いをさせたくない。
「魂の色だとも言えるけど」
「え?」
「あ、うん……」
 どうして、そうも強気というか、己に自信を持つことが出来るのだろう。
「よし」
「レベル1でまったく未経験なら、最初はある程度出来なくても仕方無いと思うから、慣れていってくれればいいと思うし」
 これからってところだ。
 そう謙遜しておいた。
「まあいいや」
 後ろでマルティナがなんか言ってるし。
 ああ、畜生。
 どうやら予想通り、向こうも自分のことを待ち構えていたらしい。
「洗濯物を干す後ろ姿を見てたら、」
「あの人、はっきりとは言ってませんでしたけど、離婚してるんじゃないでしょうか」
「あ、そうなんですか?」


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