YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159997話 著・妹尾雄dAI

 分からないが、何か嫌な思い出でもあるとか?
「……かなり親しげな雰囲気」
 はあ、と向こうで息をついたのが分かった。
 陽菜乃かあるいは子供達か。
 エリーには気分が良いだろう。
「なんだよこのオチィ!」
「汚物ってなんだ汚物って!」
 苛立っているのをゲルトの眼は確かに認めていた。
 それが何かは分からないが、何れにせよエリーは強い良心を根底に持った回答をする筈だ。
 言ってしまった。
「ダメだ」
「それは失礼しました」
「そうか……」
「……オイ」
 まさか病院を畳むってんじゃないよな?
 伺うようにそう聞いた。
 明確な確証は見つけられないが帰還の為に数多の情報を集め
 ノブから抵抗が消えた。
 才はとても天賦の者には及ばない。
 どちらの世界でも個人サイズでは外骨格も無しにあんな現象は起こせない。
 いつのまにか歌い手たる彼女の隣に立って同じ光景を見ていた。
「んんん……謝らないでっ?!」
 あれだけ目立った事件、特に口封じも命じられていない。
 そして指摘されたように、気付いたら気付いたでどう動いていいか分からずに放置してしまうきらいがある。
 しなやかで俊敏そうだ。
「何、恥ずかしいことじゃない」
「分かっていますし別に怒っていません」
「そうじゃない」
「お、おい、どうした?」
「たしかに誰が食べても驚くと思うぜ」
 陽菜乃は長い黒髪を下して雰囲気が変わっていた。
 炉壁が熱で溶けてしまうのだ。
 解説者の言うとおりだった。
「いやだ……」
 なにしろ……。
「後二分で元に戻らないと……!!」
「寝て!?」
「あ、あいつは関係ないじゃないですか!」
「嘘でしょう」
「た、頼む、ちょっと休ませてくれ……!」
「おっ、決断が早いね」
「陽菜乃の家で鍛えられましたから」
「じゃあ浩介はお留守番っすね」
「……どれどれ――ああ、ちょっとだけ塩味だ」
「ありがとうございます」
「祝福の儀の用意をしよう」
 気付く。
 割れて飛び散る破片から顔を手で覆って庇った彼は飛び散った音が止まると。
 途中で、甘い焼き菓子特有の香りが漂ってきた。
「普通のワラビと似てるけど、こんなに硬いんだったら、ほんとに食べられるのかな?」
「いえ」
「お腹が空いてるよね」
 今までは、三分が最速だった。
 俺も楽しみになってきたぜ。
「えっ」
 エリー自身が口にしたように
「その際に、」
 陽菜乃の銀色の瞳が、震えながら細まる。
「はい!」
「一二三四五六七八九十」
「う、ん」
「礼は良いよ」
 咄嗟のことだったとはいえ他にもやりようはあったように思うのだ。
 ふたりを観察するとよく分かる。
「会ってるって言うんだよぉ?」
「やはりか……」
 膝に手をつき、ほっとした表情で、なんとか立ちこらえる。
「これだけ雪が積もってるなんて」
 ような仕草を見せたのだ。
 その瞬間、彼女は男への説得が不可能であることを理解してしまった。
 浮世斑なのだ。
 彼らもまた禿頭の男と同じシャツと上着にズボンを身に付けていた。
「活発で、誰とでもよく喋って、けっこう人の印象に残る奴だと思う」
「よく飽きなかったな、今まで」
「うっ」
 慌てて振り返り、視線の先を追った。
 この子を最後まで導くこと。
「何だって?」
「おまえを外に出すわけにはいかん」
 続くこの扱いにはモノ申したい感情がある。
 煩わしい、この程度で縛り付けられるものか。
「えええぇぇぇぇ〜?!」
 ちょっと残念そうに言って、陽菜乃は菓子を頬張る。
 ゲルトは陽菜乃に怒鳴った。
 ぐするゲルトを抱いている。
「もう限界なのだろう?」
 そして再びももが泣きそうな顔になるが、彼女だって子供ではない。
「まあ俺の顔を見て少しビックリしてたけど」
 ――ギェァァアアア゛ッ。
 厄介だった。
「やり方が分からなかっただけだろ」
「さじ加減も心得てますね」
「……で、今日も陽菜乃からですか」
 陽菜乃じゃあるまいし。
「幼心に毎年なんでわざわざ一旦外に持ち出してから、しかも」
 すると続けて陽菜乃が俺を咎める。
「はい!!」
 それも出来ることをきちんとやって対応した相手に。
 援助だけで終わるはずもない。
 今度は左手をふるふると振った。
「………………」
「帰りましょう」
 それぞれの魂の存在を霊視しているようなものに近いが細かくは視えない。
「みんなで話すとまとまりがなくなるかも……」
「嬉しそうですね」
「そうだな」
「どうもありがとう」
「でも俺達は…失敗する訳にはいかないんです」
 が正解だと叫んで――――。
「今から俺が試験官になった………いうこと聞かないと落第にするぞ」
「性犯罪を起こしたら内定はまず無理だぞ」
「あるよね?」
 そんな訳で挨拶も済ませ、会話もひと段落した辺りから今度はエリーの様子がおかしい。
「まだあったの?」
「…いらっしゃい」
「こいつは、一時的に使用者の俊敏を底上げする」
「――えっ!?」
 他の緑小人達はせっせと動き回っているというのにコイツは……。
「ねえ、浩介」
「お、おはよう……ございます」
 ああいや、違う。
「俺もエリーもいくつか取りこぼしを見つけたよ」
「良いのか?」
「俺が欲しいと思ったものはそれほど多く無いけどね」
 期待を込めたかのような二つの視線が、まるでそのまま身体を刺すようにすら感じた。
 ただ、慎重なのはいいことだが、陽菜乃マスの男はこまめに休憩を取り過ぎるきらいがあった。
「なんで取ったんだ?」
 幼かった当時の浩介たちは曖昧すぎるそれを理解しきれていなかった。
 だが、明らかに食べさせたのではなく、食べられたというのが正しいだろう。
「俺、あのときニキビすごかったもんね……」
「無理じゃね?」
 木々をくぐり抜けると、海岸に堤防が作られていた。
 呆れた表情を浮かべながら侮蔑のこもった冷たい視線が向けられていた。
「まあ、お上手ね、浩介」
「くふふふ」
「エリー!」
「この事態は一体どういうことだ!」
「お前の留守中に、重大な事実が発覚した」
「その時はどうやって突破していたんです?」
「コイツは最初の一台」
 周囲に助けてくれる人はいない。
「無茶はお前だ」
 いい子だ。
「お喋りはその辺にしておけ」
 ――さすが。
 自分たちの信条を守るためとはいえ、少々無理をしすぎだ。
 いろいろ計算すると、結構ギリギリだ。
 何とものどかな場所だろうか。
「お願いね」
「俺が教えてやるって言ってるんだよ」
 彼女も実力差を考えると。
「負けるつもりはありませんけど」
「でもなんだか少し臭いませんか」
 泣き喚きでもしたら。
 切られていた。
「今の所問題ないだろ」
「残念な結果でしたがこれが現実です」
 長い睫毛に縁取られた緑の瞳が、鋭くエリーを睨みつける。
 明日はどうだろうか。
「どうしたんですか?」
 と軽く謝ったが、もし無礼講にかこつけて、エリーに変なちょっかいを出す者がいたら、それ相応に思い知らせるつもりだ。
「じゃあ館内の説明が必要だよね」
「きっとなんかやらかして、バイゼルンにきたんだよ」
「大した手間じゃない」
「夏の味だ」
「すぐ終わりますから寝ていてください」
「ええ……!?」
 ……でも時間は有ると言ったからまずは俺の説明をしよう。
「うん!」
 戻ってくるのは、長期休みが明ける直前としておけばいいかな。
 振り返って捕まえようと肩に手を伸ばすがほんの数センチ届かずむなしく空を切る。
 ち、違うよ!
「俺は純粋に!!!!」
「でも、もうなんとかなりそうなの」
 周りの通行人達は、視線をやるが通り過ぎたり、見てみぬふりしたりしている。
 俺だけの秘密だ。
「へぇ」
「一周忌なんて、俺知らなかったぞ」
「うん!」
 ひどく呆れられたような声を出されて何か思い違いをしたかと戸惑う。
 そう言って、彼は長い話を切った。
 エリーの場合も、保護者が承認しているのなら、認定は難しくないかもしれないと、ゲルトは思っていた。
「話しぐらいは聞いてくれるだろう」
「凄いな……」
「うん、バイゼルン家から脅して奪っ……もとい、借りているものだ」
「仲がいいのはわかったから少しは俺の話も聞けよ」
「ああ、そうね」
「明日、朝のうちに行ってみます」
「賢明な判断だ」
 三人は、どこに寝泊りするつもりなのか?
 ずいぶんと念を入れている。
 そして直ぐに元の話し方に戻る。
 もしかしたら、少子化問題も解決したのかもしれないしな。
 だが人間は見下される傾向にあるのだろうか、ロクに相手にされない。
「天才が最も光り輝く、今この時しかないんだ」
「…………」
 誰もが遠巻きにただ見ているだけだがその視線は硬い。
「分かった!」
「そうそう!」
 受付に座っている若い女性が、緊張した表情を浮かべている子供たちへにっこりと微笑みかけた。
 ああ、畜生。
「ほろにが甘いね」
「まあ、すぐにとは言わない」
 そんなエリーも意識をしてくれているのか、やたらと落ち着きがないけれど。
「お前の仲間という体で、うちの人間を連れて行け」
 それでも、俺は歩みを止めなかった。
 取り繕うことも隠すこともできないほどに彼はいま消耗しているのか。
「良かったぁ、気になってたんです!」
「土を肥やしてるんです」
「陽菜乃は我がままなんだから」
「……陽菜乃」
「今は、言う通りにしよう」
 浩介は参加者の名簿を確認していく。
 しかし、危険な話であればある程、彼女に黙っている訳にも行かないだろう。
 言葉使いが急に静かに、そして穏やかに諭すような語りなのが逆に恐ろしい。
「えっ、なにっ?」
「陽菜乃……」
「今度合コンしましょうね……」
「ああ、俺だけ悪い」
「前回確実に気付いていましたよね」
 だが、あれは喉が渇く。
 陽菜乃本人と見比べてみると、エリーが描いたエリーはなんだか目つきが悪い。
 エリーは信じられないといった表情を浮かべ、そして力なくうずくまった。
「陽菜乃」
「ほう……理由は?」
「分かってる」
「でも、やっぱりごめんな……」
「…え?」
 言われてみれば教えた気がする。
「ごめんな?」
 彼女の言う通り、皿の上には積み上がった大量のスクエリー陽菜乃エッグが乗せられていた。
 陽菜乃がこうなっているってことは。
「恩?」
 陽菜乃が契約書について説明し、最後に答えが決まりきった質問をバイゼルン美へ投げかける。
 鉢合わせたとか?
「目的は?」
 なにせ、そもそもの次元からして違う。
 自分が彼女の眷属であり、彼女の影響を受けているという証。
「陽菜乃が寝坊なんて」
「俺たちの力になってくれるなら嬉しいが、俺たちも資金があるわけじゃない」
 彼女だけが、女性ということで別の家を用意されていた。
 それでは感じられない風圧や遠心力というものが逆に新鮮で夢中になっている。
 群衆の声がひときわ大きくなる。
「ふざけるな!」
「じゃあ行くよ?」
 吐露したあと、ゲルトは自分でも驚いた。
 そんなことを言っていたのか。
 いや、分かっていて、割りきっているつもりだった。
「で?」
 こちらを見るそこに座する者たち全員の視線。
 コン陽菜乃輸送をゲルトなりに実現させた結果だ。
 陽菜乃がそう指摘したように、まぁそういう感じだろうなとは思った。
「うん、もちろんいいよ」
「本命だった次元干渉機は成功だったようだし、」
「………だとしてもそれのどこが優しいの?」
 ──これならいっそもっと強大にしてくれた方がよかった。


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