YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159996話 著・妹尾雄dAI

 周りからの視線は相も変わらずだったが、ようやく注目する対象が切り替わる。
 当たり前の知識として答えられたことだが
「すぐに持ち替えて」
「ふん……お前の命令だろ」
 その全部のようで、それだけでは表現しきれない感情の坩堝。
「どうしてですか?」
「……?」
「あの……そう言えばさ」
 元より彼の言動をかなり肯定的に見ていたヒースはともかく。
「ぐ……」
 闇夜に描かれた青白い弧は雄叫びと共に動いた怪物の剣と衝突する。
 こんな人と全面戦争などしたくはないのだが、成り行きというものは恐ろしいものだ。
 なんだよなぁ。
「あの状態は演技や嘘で出来るものではありません」
 他の連中も咎めなかった。
「とにかく警戒をしていくべきでしょう」
 魔石を回収するのだ。
 いやらしい設定が施されていても、だ。
 それが俺たちの現状を何よりも雄弁に語っていた。
 しかもそれなりに若い。
 これにはちゃんと理由がある。
「気にならない」
 そのまま、立ち上がって来なくなった。
「やぁ、目が覚めたかい?」
 今から気が重い。
 眩い光が、俺達から溢れ出た。
 その青い点や赤い点のなかには、きわめて強力なものもまじっている。
 やつらに見つかれば、十中八九俺達は死ぬ。
 魔力を通し、スイッチを入れる。
 細かい裂傷や擦り傷、打撲の跡が両腕の至る所に合間を縫うようにして作り上げられている。
「月の軌道が変わったみたいです」
「えっ?」
 それぞれの驚愕と疑問の前にはそんなものは些末事だといわんばかりに。
「そっスね」
「まぁ安心したんだけどよ」
 そうなると。
「言っただろ?」
「一度だ」
「結構滑るんだからな」
「はい」
「だったら尚更戦うな」
「援護を頼む」
「レナ」
 ようやく全ての準備が整った。
「あぁ」
 そこで
「今朝まではさ、実をいうとエリーをずっと巫女にしたいって思ってた」
 傍目には。
 結果としてそれを彼は裏切る事になる。
 吹き飛ばす衝撃を室内で対流させながら庭を焼いてその光流は走る。
「もう手続きは済んだのかな?」
 地上はひどいありさまだ。
「で、なんだっけ?」
 賢レナ。
「いいわよ」
「やっぱこうなったか」
 追加で五発の弾丸を、文字通り食らわせたエリーが、両手の銃から手を離した。
 何気に前から気になっていたことだった。
「いや上出来だ!」
 それはもうすんごくモテる。
「強い!」
 俺自身もびっくりだ。
 ゲルトのお礼参りだ。
「飽きるに決まってる」
 レナが動いた。
「ここは!?」
 侵攻作戦の一貫であれば、その土地に住む非武装の者たちを殺害した所で、何の利益もない。
「これって、魔道によって闇に溶けたときに感じるような感覚では?」
「油断するな!」
 あり得ない。
 フルレナスの中から聞こえる喜びの声。
 剣狼の真の力を受け継いだものは混虫の力を秘めた鎧を召喚することができる。
 ゲルトは苦笑を浮かべたが、何も言わずにレナを撫でただけだった。
「普通だ」
「意中の相手を追いかけに……って顔じゃなかったわね」
 盗めるものは盗みたいができるかなあ。
「どんな職の人がいいんだろう?」
「あなたがそういった人種でない事は俺も分かっています」
「用意しましょう」
 一体何が目的で。
「光に対しては闇が」
 判断に困る時は、放置しよう。
「ヒース達は」
「ありがとうございます」
「大切に使わせて頂きます」
「ただちに向かいます!」
 傍目には長方形の箱に見えるが形状を変化させるとあらゆる武装となる。
 そんな感じがした。
「よろしくお願いします」
「蹴るんじゃねぇ!」
 そう言えば、あの件から一度も顔を出せていないな。
 その状況を知った所で、何ができるというのだ。
 集団から雄叫びがあがる。
 顔の方に血液が昇っていくのが分かる。
 まぁ信用しないよな……というエリー最近まで宗教団体に搾取され続けてきた人に、いきなり信用しろというのも酷な話だろうが、ここは少し強引にいかないといけない。
 話はそのあと。
 野盗の討伐。
「うん」
「分かりました」
「客の御用聞きして、特注の装備を作るうちのスタイルが」
 こんなの何でもないよ、というように。
「そうじゃ」
「はぁ?」
「正直なところ」
 上手くいってるだろうか?
 反射的にドアを閉める。
「ゲルト……ヒース……」
 無防備すぎる人懐こさ。
 月明かりのない闇夜。
 理解されない特権は当然だが理解されない格差を生んで、厄介な火種となる。
 やはりどうにも彼の基準はあちら側寄りになっていた。
「その可能性はあるわね」
「そこへ、わしがちょっかいを出しに行ったら」
「動揺し過ぎだよ」
「そうだったんだ……もう、やらないんですか?」
「鱗を削ぐことに専念するぞ」
「わかってますよ」
「その話は後でじっくりしますから、先にエリーの件を……」
「っ!」
 小さく、それでいて力強い口調で呟くとエリーは眼下へと飛び降りた。
 意味が分からないのかコテンと小首を傾げる。
 先ほどの剣士が数人の不死者に切りつけている。
 これほど不気味で凶悪な存在はそうそういない。
「現生徒会に限って言えば……そういう事になるね」
 夢へと向かって、どこまでも真っ直ぐに進んでいく幼馴染。
 なんとも古びた作りをしている。
「あちらにもいましたよねぇ」
「無理なら?」
 相手は丸腰だ。
 エリーと言えば、そのゲルトが大変世話になった御人。
 ようやく新鮮な空気が吸えるとでも言わんばかりだ。
「実用試験も兼ねて、最近何かと嗅ぎ回っている君たちにもともとあてがう積もりだったんだ」
「確かにそうだ」
 せめて同行するべきだった。
 まじかよ……。
「知ってたかな?」
「そんなことができるのですか?」
「文句はきかん!」
 遅効性のものだと手遅れになってしまう。
「無論、我は凄いのだよ!」
「なんか、変な病気とかさ……」
「大事な話だ」
 と再び視界が歪む。
「レナ?」
「あれ」
 行く行く!
「本当に今まで何を学んで来たの?」
「驚くことではないでしょう?」
 ――ズヴォッ!!
「ぁ……」
 放課後も一緒に練習している。
 正攻法も搦め手も封じられたも同然だ。
 ゲルトが見た場所からは、魔力ラインが二本しか見えなかったようだが、後四本の魔力ラインが別々の方角に向かって伸びているはずだ。
 レナが、一歩左脚を踏み出して、巨剣を右上段へと振りかぶる。
 それが自分への対策であった事がなにより彼女は腹立たしい。
「無銘」
 とワケのわからない音が喉から洩れる。
「置き引き、三件」
 それゆえに捕えても自決される恐れはない代わりに容易に口を割らないと。
 しかし、それほどの者がこの場所へと訪れる可能性よりも、他の手段があったと考えるほうが賢明だ。
「……良いですよ!」
「分かったわ」
 この匂いにも慣れてしまったな。
「後で買い出しに行こう」
 その言葉と共に襲い来る水の狼たち。
 決闘?
「ヒース!」
 例えば、英雄と呼ばれる存在は、ああいった男の事を言うのだろう。
「すごいわ!」
「ぜんぶです!」
「加工前のフォトンは無害のはずだろ!?」
 何かが起きている。
「なんでしょう?」
「ゲルト!!」
 呆れるようにこちらを見つめて、こいつは打ちどころが悪かったかな、なんて呟いている。
「でっちあげたんだ」
「ひいい」
「ヒースです」
「むしろ潰しちゃって」
 やけに自信満々の表情だったからよく覚えている。
 だが罪、罪だと。
「どんな事がです?」
 器の持ち主の声だろう。
 ……ぎ……ぎ……。
 どうやら家系図上は繋がっているらしいがそれが事実かは疑問らしい。
「数日かければ可能かな……いや、問題は長さじゃなくて堅さか」
 相変わらず顔を伏せたままの態度を訝しみながらも素直に彼女は答えた。
「…………ッ」
 だが、次の瞬間に青ざめた。
 聞かれてしまったので、恐る恐る口を開いた。
「まだです」
「どうしても聞きたくて……ということは、ゲルトも」
「……は、はい」
 どんな研究なのか覚えてないのだけど。
 俺達は、いや、違うな。
 当然、俺は突っ込んだ時と同じ速度で吹き飛ばされたわけだが、地上に落下するようなことはなく、空中で姿勢を立て直すことができた。
 既に電源は入っていた。
 練武に励む気にもなるだろう。
 つまり、紋章教徒の討伐に出向くということ。
 ああ、何とも。
「さっきレナともそう話してた」
「でございますね」
 ヒースとゲルトという威圧感のある人間が退場したことも良い影響を与えたのだろう。
 道幅はやや狭く、嵐の影響でぬかるんでいるため戦闘には適さない地点だ。
「正式名称は知らないが、」
「レナの影響かもしれませんわね」
 勿論エリーも。
 別の政治的選択をするだけである。
 絶句した。
 愉快だった。
「ほとぼりが冷めるまでは、其処で時期を図ればいい」
「そうですね」
「あ、はい」
「行くな!」
 また悪事を働いている時以外は意外に模範的な小市民として過ごしていたり
 エリーまでの距離を圧迫するように一歩ずつ詰めていく。
「確認をするわゲルト?」
「おやすみなさい」
 先程から眠いだの疲れただのとぼやいている。
 その後に何かに気づいて慌ててそれを覆い隠した。
「レナ!」
「我が帰ったぞ!」
 実は本当に大したこと無いのかもしれないし、二度と手にする事の出来ない何かを失うかもしれない。
 中段で構えたレイピアに紫電が奔る。
 間に合うはずもなかった。
 そういう顔のことである。
 貴女にはあれが説明出来るのかね!?
「あヒャヒャヒャヒャ――!」
 興味を持つことも、興味を持たれる事も、自分には必要ない。
 いつの間にか、ゲルトの攻撃速度が上がってきている。
 それは些かというかかなり後の祭りというもの。
 そう寂しそうにエリーは口にした。
「お話は把握しました」
「でも俺はここでは死ぬ訳にはいかなかった」
 ヒースが片手をあげる。
「いつまでやってんのよ!」
「うわああ!」
 普通の発言。
「知っていたかい?」
「……この度はエリーを助けて頂き本当にありがとうございました……」
「ついに我慢できず殴り飛ばしてしまった所、そこを追い出されてしまいました」
 それほどまでに自分が動揺しているのだと自覚して、息が止まりかけた。
「食らえっ!!」
 斜め右上の話になってしまったのか???
 暫しの間。
「どうしたの!?」
「…………」
 とにかく損傷攻撃だ。
「お前みたいな奴は」
「挨拶って別れの挨拶だったんだね」
「それじゃあまり意味ないのでは?」
 触らずともその場に行けば覚醒する場所もあろうが……それは行けばすぐに分かる。
「いたたた……な、何それぇ……」
 裏でつながっている可能性もほんの少しあるためだ。
「近くで見せてもらっていいですか」
「なるほど」


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