YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159584話 著・妹尾雄dAI

 適当にうなずいていたら、危うく実家訪問をさせられるところだった。
 それだけさ。
 凛と。
「あ、それ」
 ヒースに動き出す様子はない。
 こりゃだめだと思いベアトリクスを見やるけれど、エリーもさっぱり意味が分からないようで、俺と眼が合ったら無言で首を横に振る。
「はい!」
 舌をこんなに伸ばせるなんて予想も出来なかった。
 先回りで釘を刺される。
 表立って批判の声は出ないかもしれないだろうが、アキトが周囲を黙らせるためには明確な実績も必要なのは確かだ。
「あらゆることに優れておりますが、槍のほうはそれほどでもないのが欠点ではありますね」
 衝撃。
「ヒースもそうなのかと思って」
 それは腕や経験でその命を守れる物ではない。
「――とまあ、こんないきさつでね」
 アキト自身は、エリーが話してくれるなら聞きたいが、無理に聞き出そうとは思っていない。
 されど正式に引き取るとなるとその非嫡出子にも法律上継承権が発生する。
 そして情報と娯楽の間にはかなりの順位差がある。
「俺はずっとエリーに鍛えられてたから、ちょっとは冷静に戦えたんだ」
 それに0距離だとしても今のままでは奴の装甲は抜けないだろう。
「でもすぐに表情は元に戻されますよ?」
 それを優先順位を提示することで棚上げさせて先頭に立つ。
 手の位置を直され、恐らく癖なのだろう傾いた頭を何度も直された。
「ぜんぜんいいけど」
 異質な音が。
「英雄だよ」
 境遇的に仕方がないというべきか。
 その事実を認識したのとその雄叫びはほぼ同時。
「そんな攻撃、全然効かへんのう」
「それも高貴な人が住む館ね」
 違う。
 これには何もないみたいだが、十分に高価な品である。
「できた!!」
 いきなりのことだったので、とっさにしがみついたが、様々な訓練を積んだ俺じゃなかったら、振り落とされたんじゃなかろうか。
「うわあああああ」
「それにはエリーに同意する」
「え……え、ちょっ、ちょっと待って!」
 今度は返事が無かった。
 いくら奥義でも物理的な破壊力の強さなど意味がないのも分かっていた。
「はい……処理依頼は妖魔に成る前の妖気の渦の場合も多いのですが、ここ数年は特に妖魔の活動が活発になっていますし……仕方がない事ですが」
 アキト。
 いかつい肩からすとんと力が抜けたのが分かった。
 けど、だからこそ昨日から俺の能力にさほど抵抗が無かったのか……。
 生じた爆風と噴煙を前におバカと毒づきながら失笑する。
「だろ?」
「この封印の魔法は、地震程度で破れるような簡単な魔法式ではありません!」
「やっぱり、君はすごいな」
 ヒースについていた謎の男。
「そうでしたか……凄いですね」
 もしかしたら、エリーがアホな事を言ったから、俺のその反応を見て楽しもうとでも思ったのかもしれないけれど。
「あのような出来事が無ければ――」
「良いらしいわよ」
 重心を崩しやすい体勢で死角からの足払い。
 周りは黄土が広がり、雑草も生えていない。
 賺さず、立ち上がろうとするが時既に遅し、相手の刀剣が首元に当てられる。
 その冷徹とも言える思考が、告げていた。
 改めて首を落とす程の話でもない。
「はい、駆け出しですけど!」
 なにが危険なんだ?
「……その、だから、素人が危ないことしてすみません……」
「いい指摘です」
「何をするんです?」
「そろそろ行くぜ?」
 ベアトリクスはフォトンで構成された大光剣。
 どの道これからは随分動きやすくなる。
 それは岩を蹴った手応えではなかった。
 だが、それ以上口答えしようとしてアキトに止められて口惜しそうに俯いた。
「モモぇッ!!」
「!」
 堤防はあらかた潰されているためほとんど存在していない。
 俺は手首の返しだけでナイフを投げた。
「そう言って貰えるのは光栄だけどな」
「おい、お前ら?」
 火炎は両腕を広げながら大きな声で叫んだ。
「おら、アキト」
「うん」
「機嫌直せって」
「炎よ!」
 魔石が二百何十個か。
 それがここに集まった官僚たちが想像する敵のシナリオであった。
 だが、そんな一瞬の間のあと、二人の突飛な行動にいち早く復帰したベアトリクスが言う。
「そ、そうですよ!」
「お、おはよう!」
 そう言われた。
 その薄暗い雰囲気にもあっさりと慣れたらしいベアトリクスと共にその入り口をくぐる。
 俺の言葉にベアトリクスが首を横に振る。
 それを正確に見抜いてか。
「円です」
 ベアトリクスは、伏し目がちにそう言った。
「そうよ」
「仲間はこれで全員なのか?」
「十分です!」
 見物人がやってきてもおかしくない……のだが。
 決して面白半分ではなく、真剣な眼差しで俺のことを知ろうとしてくれているのだ。
「……うん」
「あぁ、もういいぞ」
 手入れは最低限で済み、撃つごとに砲弾を装填。
 勝てるわけがない。
 それが多いのか少ないのかは分からないが、所属して居ない人は結構な確率でやんちゃな生徒だったり。
 人の動きを追ってゆき、にぎやかさをたどってゆけば、おのずとたどりついたのだ。
「どうしたの、エリー」
「♪」
 はまるで、ソレのようだった。
「……はぃ……」
「あ……何でもないや」
「はい」
「今言おうが昨日言っていようが同じこと」
「今回のアビス討伐は死者が当たり前に出てしまう!」
 実際には、剣と皮膚との接合であるにも関わらず。
「……いや、むしろこれでマジで変身できるんじゃないか?」
 彼女はしばし思案した後にこう答えた。
「これは大変だな」
「抑えろ!」
 実行犯と推定白、確定白の三つ。
 自分の影を巻き込んだ魔法。
「知るか」
「ベアトリクスを助けるんだ」
「そういやこないだよ」
「あはは、それもそうだねえ」
「不味いと思ったら直ぐに連絡をするよね!」
 バカ野郎ッ!
「うっ、ってどこで覚えたのよそんな言葉!?」
「三つ目は逆です」
「てめぇら!」
 そんな技、俺も知らないのだけど。
 何だそれは。
「お前が反対側に到着したらお仕舞いにしよう」
 勝手知ったる校内。
 結論
「謝らなくていい」
 喚くエリーに、ヒースは思わず怒鳴った。
「ベアトリクス……エリーが辛くても、俺は知りたい」
「なら良いけどな」
「……到底考えたくもありませんが……」
「家まで案内しよう」
「けれど血は受け継いでいるから常人よりも身体能力が優れては居るんだ」
「へえ……」
「こいつがお前の才能ってことなのかもな」
「そうなの?」
「ご両親」
 ――しかし、ワシでは……。
「装備品!」
 どうやら配慮してくれるらしい。
「そんな事ありませんよ」
 これは彼のいつもの手だ。
 彼は世界蛇の前に足を踏み入れて、身体の上に飛び乗った。
 アキトが近づいていっても立てないようで、それでも虚勢を張って引き攣った笑いを浮かべていた。
「まぁ、確かにな」
「正確に言えばエリーが立っているのを見るまでは」
「そう……ですか……」
 そしてその確認や調整をするのに目の前の女性以上の適任者はいない。
 本当にこれで弱っているのか。
「なんなら適当なことを言って追い返してもいい」
「俺もあの時に手刀で意識を落とされたし」
「なになに?」
「すごいな……」
 さてこれも、俺の剣術レベルの肥やしになってもらうか。
「エリーの仰る通りですわ」
「ふふっ、誰かみたいな言い回しよね、それ!」
 なにもかもどうでもいい。
「誰だ?!」
「ベアトリクス」
「ええ、全くですわ」
 まあ、普通ならな。
「それで死んだら、自業自得じゃない?」
 ベアトリクスの口が静かに動く。
「展開!」
 滅ぼす。
 その殺意に対して彼は青い顔のまま床を蹴っていた。
 ようやく魔導書らしい能力が出てきた。
 闇に溶けたまま、暗がりを移動する。
 そうなれば取調室に入ってきたカヤマの最初の言葉が問題となる。
 しかし残念というべきか。
 素直な感想を口にする。
 報告より人里に近い。
 ただラフレベアトリクスだけに気を取られていてはよくない。
 だが同時に未知の生物でも見たような顔がある。
「行くぞ、エリーっ!」
「全員撃て!」
「お願いしますっ!」
 本来はワイト一体、数人がかりで動きを止める。
「戦いたかったんだろ!」
 目の前に居たアキトに剣を振るったはずが、ソレは虚空を切り裂いてしまう。
「数が増えてやがるか」
「ちょうど良いかもしれません」
 遠巻きに眺める仲間の少しにやけた視線。
「本当に感謝しているんだよ、俺は」
「それに……ベアトリクス?」
「そうね」
「ベアトリクスを助けるんだ」
 しておらず、遭遇すれば危険極まりない存在だが、平地にはほとんど出没しないそうだ。
「そんなの嘘よ!」
「うん」
 え???
 必ず、なんらかの打開策をもっているはずなのだ。
「一口ください」
「そうすれば必ず勝てる!」
「そうだよ」
 明後日の方向ではないが、ソレの真横を通り過ぎて壁に突き刺さる。
「負けられない!」
「きゃっ!?」
「田舎過ぎて退屈かもな」
「なるほど」
「整っていると思いますよ」
 うめき声を上げたが、起きる気配はない。
 もはや幾度目か。
「あ、ああ…一昨日の夜にそういう理由で一時離れると聞かされてな」
「ベアトリクス!」
「俺はただの落ちこぼれだぞ」
「そして俺はクルラッハ」
「……鉄槌」
 何気に、ベアトリクスは俺の障害になるであろう人物名を事細かく伝えてくれる事は今まで一度も無い。
 彼女たちが、この騒動に何らかの関与をしていることは、間違いないだろう。
 すでにへたり込んでいる者は、途中から腰を抜かしていたのだろう。
 ちっと小さく舌打ちをしつつ、頁をめくっていた本を閉じて振り返ったヒースは、立っていた女性を見て言葉を切った。
 フレア……etc.。
「お伺いしたいことがあります」
「良かったね?」
「その通りだ」
 同じ名前だったためどこかで名を聞いた時に印象には残っていたがその程度。
「より強い力を持って産まれた女子が、また同じ役割を持ったんだ」
「噂通りかな」
 単純計算で3倍。
「凄く似合うよ、エリーの瞳の色と同じだし、凄くいい」
 そもリアルサイズ化を目指した事で内部に詰め込める絶対量は減ってしまっている。
「ふふっ……それでも止めないんだから嬉しくなるね、ホント」
 地道な努力であったが、まわりが皆優秀であったために成績は底辺。
 まわりの人たちの能力を急成長させるスキルを持っている。
「ア、ラビ……」
「いえ」
「どうだろうね」
 なのに。
「なんだよそれ」
「いきなりなご挨拶だけど、どういうことかな?」
「ベアトリクス!」
「それはそうよ」
 アキトはずっと見ていたのだ。
 ヒースが放出した装備品の中には手ごろな手錠や枷もあったのだ。
「がんばったのっ」
「ならば、貴様よりも先に我が攻略し自慢してやるとしよう!」
「はいはい」
「さすが特別科」
「まずは前提条件から」
「最悪を想定していたけど、運良く生き残れた……いや、運も実力のうちかな」
「早く帰りたくなるな」
「アッハハハ!」
 真っ赤だ。
 ……んなわけないか。
 だとか。
 恐ろしくなるほどに。
「う、嘘だろ……」
「そんなものがあったのか……」
「え?」
「すみません」
 当然、死を受け入れて自らの心臓を抜き取る必要があった。
「尤もだな」


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