YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159580話 著・妹尾雄dAI

 伺うような、困ったような顔。
「話すから、おねがいこれ止めてぇっ!!」
「そうみたいだね」
「ご馳走様でした」
 迫る氷の刃と無数の氷の弾丸に流石のティアナ丸も目を丸くする。
「…激しく?」
 起訴するぞ――。
「噂をすれば陽菜乃だ」
「お前はそう考えているんだよ」
 俺には両親が居ない。
 そのために対人戦での駆け引きや読みあいという経験を彼女は積んでいない。
 うん。
 青い宝玉だ。
「俺が4体止めれて、ティアナが2体、陽菜乃が1体か」
「薄っぺらいんだよそんな言葉は!」
 暗闇に慣れた目はそれが誰なのかを両者にはっきり教えてくれていた。
「前にちょっと浩介に聞いてみたんだけど……」
「そうですね」
 だからだろうか。
 その笑顔と今の笑顔が頭の中でどうしてか重なって見えてしまった。
「――ごめん、遅れた!」
「でもあの方達は更生はしませんよ?」
 ティアナが身体を起こした。
 ゲルトたちの来た道は、陽菜乃の魔法による落盤で完全に塞がっていたため、蟻が這い出てくる隙間は無いと思われたが、別の道にもまだ蟻がいるかもしれない。
 情けないことに、大人たちはただその様子を見続けるほかなかった。
 …心の中。
「もう、あれだ」
 相変わらず変な言葉を口にするなと思いつつ、今度は陽菜乃の方を見やれば……。
「価値があるものだから、先に渡した方が有利と考えたのね」
「陽菜乃」
「ティアナ!」
「……やっぱ今回も大変だった?」
 しばらく時間が経った。
「それなんだ」
「まあいい、これから何十年もの長い時間、いくらでもその機会はあるであろうし、どれだけ忠義を示しても多すぎるものでも無いだろう」
「割と興味ある」
「こんにちは」
 その応答を緊張した表情で見つめるゲルト。
 魔法で強化している者と強化していない者とでは、大人と子供の筋力並みに差が出る。
 でも――。
 此方側には踏み込まない方がいい。
 根拠はないが、!
 周囲にせわしなく目を動かしている。
 ここでいう普通とは科の違いではない。
 そう言ったつもりだったのだが、その言葉にいち早く反応したのは意外にも陽菜乃だった。
「はい」
 防御が間に合わない。
「敵の数が多いですが」
「何をだ?」
「ちゃんとストレッチしたほうがいいぞ」
「お願いします」
 この目の前の男は尋常ではないと、本能が感じていた。
 見直したよって。
「うん」
 ティアナがいた。
「魔族、ね」
 代表として意気込む彼女は真顔である。
「ですが何分高齢の為か、最近体調がすぐれないとも聞きましたが」
「何?」
 ティアナは思い出した。
「治療を!」
「あがっ……」
 久しぶりに正しい発音で名前を呼ばれて、なぜか顔が引きつった。
 それが先程の事件でより明確になってしまったのである。
 だが残り三割はというと……。
「はい」
「体が勝手に、うっ……みんなに認めさせて、くっ、言う事聞かなっ、うぐぐっ!」
 しかし陽菜乃は親指で鯉口を切ったまま肩で荒い息を繰り返している。
 そりゃあまだ驚かないよね?
 何せ。
「走れません」
「そうかもしれませんが、もしかすると別の目的も……」
 火の息や牙による攻撃ならば効果はあったかもしれない。
 これまたナニ言ってんだろう?
 バイゼルンを召喚する事は無いな。
 そう考えていた。
「急にどうした?」
「今度は燭台で殴られたいかい?」
 ティアナによると、襲ってきた猿どもの数は倍以上いたという。
 どうやら、陽菜乃が上に逃げるのを予測していたようだな。
 なのに俺がそれを真っ先に破ってしまう所だった。
「っ」
 否、実際はそのすべてを完全に避けられているわけではない。
 彼女はそれを人差し指と中指で摘み、ひょいっと前方に投げると、ズバンッっと激しい音が響いた。
「いいんですか?」
「どうやら俺もお前も手加減をし過ぎたようだな」
「お前が使ってる魔法のことだ」
「ガアアアァァッ!!」
「おおぉぉぉぉっ?!」
「もしかしたら、浩介ってほ」
「やった……!」
「やらないさ」
「どうしたんだ?」
 そうだ。
「えらいモンや」
 三人の少女たちをそれぞれで守るように抱えながら。
 中二病のイタい台詞にしか聞こえてないだろう。
 ティアナ位だろうか?
「だから待ってって言ったのに!」
 一撃が強く、素早さがある。
 違法も合法も無い。
 滅多にそんな表情を見せる事などないのに……。
「はぁ……はい」
「いきなりくるよ」
「俺も腹をくくった」
「お願いします」
 とたんに不安定さを増した。
 それでも、やるしかない。
 すると陽菜乃は素っ頓狂な顔をして、さらに聞いてきた。
 陽菜乃が頷きながらティアナに問う。
 それはもう、必死でお願いした。
 けれども思い出せない。
 なにしろ……。
「そのうち傷じゃ済まなくなる」
 本気で勝ちに行ってやる。
「……gdgdでありんす」
「書簡が届いて直ぐにこっちに向かったって感じだろう」
「はい」
「まったくもお……陽菜乃はもうちょっとピリッとしなきゃ!」
 それから浩介の許しも得ず頭を上げてしまったことに気づき、慌てて再び顔をせた。
「申し訳ございません」
 彼を大事な友だと思っているがゆえに。
 物理的な攻撃には、かなりの耐性があるようだ。
 ただ刃物が、空気の合間を通り抜けたような、そんな音。
 そういえば、彼の袖に触れたこともある。
 獅子や虎のようなしなやかで強靭な獣だ。
「陽菜乃」
「陽菜乃?」
 埋めた罠全部壊されてどんな気持ち?
 何せ追跡者の事をまるで考えていない痕跡は逆に不自然だったのだ。
 ゲルトが言った。
「一割の魔力と言っただろう」
「ぶっ飛べ」
「だ、だから!」
 そしてもう一つ伝えなければ成らない事を思い出す。
 さして危なげなく門近くまで裏道を進み、再び元の通りに戻った。
 陽菜乃はゲルトを振り返る。
「…この間も、生意気な事を言ったのでぶっ飛ばした、とかなんとか言っていましたよ」
「彼女が?」
 ならば、過程はわからないが、姫君は自ら己の角の欠片を、ひとに譲ったのだろう。
「いいかみんな、安全第一でいこう」
 そのやりとりは、男女の会話というよりは、反りの合わない女同士のそれだった。
「審査?」
 事前に用意していた一種の召喚魔法を使うことなど難しいことではない。
 それは人々は未だ雑草を食み、木の皮を啜って何とか生きていた時代。
 焦りだけが募る。
「ちょっと待て」
 しかもティアナはその能力を自覚はしているけど理解しきっていない?
「こいつはこの場で爆散させる」
 詮索しようとも思わない。
 坑道の先に進めば、開けた場所に出る。
 …駄目だ。
 俺に触れて居ればゲルトも結界内で一緒に消えますから!
「やっぱ気のせいだよな」
 直撃したわけではない。
 それでもかまわずに叫んだのだけれど――。
「さようでございますか……出過ぎた事を申しました」
「そうみたい」
「いやいや、俺だってそれぐらいの常識はあるよ!?」
 内出血も多く、肉体の内側も。
 人数差。
 すみませんほんと……。
「うん」
「下調べは斬牙の連中に任せておけばいい」
 思い切りはいいくせに動きに自信の無さがある。
 三つ、ゲルトと陽菜乃は互いが本物であることを証明する方法がある。
「特殊な攻撃が出来るから重宝してる人もいるんだけど合わない人は合わないから」
「魔眼によって看破されるからな」
「そういうこと出来るのか」
「二人とも気をつけて」
「杖に付ける魔石も、好みは人それぞれだからね」
 言葉の一つ一つが、喉奥が熱くなったようになって吐き出される。
「わかった!」
「彼女は……君も知っている通り、才能ある魔道士だ」
 やはり、コイツは小物だ。
 どう活躍したのかを簡潔に話した。
「つまりはそういう事だよ」
 陽菜乃は頭を抱えた。
 やるべきことは決まった。
「すまねぇ!」
「これ全部バイゼルン語で名前つけられてたのか?」
「ここは!?」
「彼女は唐突に現れた」
「……?」
「少しやり口は変えるが」
「夜明け前に作戦行動ね」
「では、急ぐのでこれで」
「事故って死ぬ」
「邪魔をするな!」
「なんでよ」
 時折手渡された地図と方角を確認しつつ、邪魔な小枝を払いつつ進んで行く。
 だからであろうか、俺の口調も少し強いものになってしまう。
 ならばそこにはさらなる第三者がいたと考えるのが妥当。
 しかし、視界は暗幕にでも覆われた様に真っ暗で、何も見えなかった。
 落ち着くまで放置するのが一番だ。
「本当に悪かったな」
 高い金を払ってでも、引率者を雇いたい。
「あらあら」
「聞いた話だと結構大柄なんですよね?」
 そういってティアナは拳を握りしめたまま黙ってしまった。
「ふむ、これが今回どういうわけか抜けたと」
 !
 ……どうする?
 それとも……あれか。
「今までの恨み辛みも全部、奴らに叩き付けてやれよ!」
「これがCCって悪名高い奴かい」
「アミュレットは悪いものだけ弾いてくれるから」
「こっこがすぐに懐いたし」
「そうだな」
 応えるティアナの声音は、やはり素っ気ないものであった。
「……お……」
「お!」
「実力の誇示か」
「この場合」
「うん」
「ずっと三人でいるって約束したのに……うそつき……」
 後の3人は既にこの世に居ない。
「じゃあ、話を戻すけど、三連休はティアナは追試があるかもしれないわけだね?」
「うぅ、はい……」
「……浩介は黙って」
「陽菜乃が変だって噂?」
 時間は早朝。
 衒いも飾りもない、単純にして明快。
 それは瞬間の反応。
 内側から彼女が力技で滅ぼそうとすればさすがに彼等は一致団結するだろう。
「やっぱりティアナ?」
「その種子は……」
「っ、貴様ぁっ!!」
「直ぐに慣れますよ♪」
 武器は本物。
 恐らく昨晩に巫女で話し合ったのだろう。
「頼むぞ!」
「おう、浩介」
「意識を飛ばしただけだ」
 目が合うと同時に、浩介が肩を竦めた。
「仕方がない」
「人殺し」
「そして2つ目は―――」
 もちろん、そんな自分は嫌だ。
 これを明確な好機と、そう捉えざるを得ない。
 シュボッ!
「……どんな?」
「ふむ……ボロでも出してくれれば良いのに」
「きた……!」
「はぁ……」
 ティアナが怒られてはいないだろうか?
 空を虹が覆っている。
 相談した人を間違えただろうか。
 お互いの前衛を飛び越えて、火球が俺へと殺到してきた。
 削る。
「何やってんだ!」
 目の前の敵を。
「何と、そんな理由で?」
「はい」
 大通りに敷かれていた石畳の間からは、草が生えていた。
「ぐううううウゥゥゥゥゥッ?!」


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