YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159578話 著・妹尾雄dAI

「うすうすそうじゃないかと思ってたぁ!」
「次は取っておきの罠だもん!」
「分かったか?」
「二つの目標は亀裂方面へ向かっているそうです」
「こいつがさっきのスリか」
「彼らから習った事」
 確かにそうかもしれない。
 水にぬれて重くなった服と、水を吸ったズボンが俺の動きを鈍らせていたのだ。
 最初の言い淀むような表情に戻ると。
 ぱらぱらと粉々に吹き飛んだ岩の破片が降り注いでいる中で
「そうだ」
 把握数を増やすしかない。
 大きな剣を担いで。
 一体何を根拠にそんな話ができるのか全くわからないと、エリーは疑問を口にするが、レナの回答は。
「それがどうしてお前の補佐役ということになるんだ」
 ただ痛みを訴える悲痛な声を上げる事だけが彼の出来る事だった。
「二手に分かれたか」
 アキトは思わず目を見張る。
 視線の向こうには、足湯に浸かりながら響に何かを教えている男の姿があった。
 避けられなかった。
 と含みを持たせつつ二人の紹介をするが
 レナは先の戦闘での失態に責任を感じている様子だった。
「エリーは……何か良き事が、天より与えられた、のでしょう、か」
 エリーの銀色の瞳が、驚愕に揺れ動く。
 その言葉を、その意志を。
「レナ、あの人……」
「ああ、わかってるね」
 だけど、戦いにはなっていなかった。
「取り敢えず、薪足してきた所っすね」
「よしよしだよ?」
 大きいというだけで、人は強烈な圧迫感を覚えるものだ。
「エリーが渾身の一発を撃っても、即死させることはできないと思う」
 絶対に助けて見せる。
 さっぱり分かって居ないけど取り敢えず殺さないで置くという事は分かった。
「大変だ!」
 そう思いながらレナの表情を伺う。
「あ、うんと、午前中か午後すぐには到着するように行こう」
「なるべく早いうちに顔を出すようにとのことです」
「聞け、魔の者どもよ!」
 モーリスの殺気が膨れあがった。
 が、その突進力は凄まじかった。
 だが、不思議と痛みは薄い。
 本能がそう叫ぶ。
 組織の維持と浄化に務めていたはずの同志への聞きたくない答えを問う声には。
 そもそも∞スキルを持っている人間は他の人間に比べて人間離れしているのだ。
「あぁ、またお客だ」
 お前はそうだろう。
 たったひとりの俺は、度外視していいはずだった。
「適材適所ですよ」
「十年鍛えればだれでも出来るようになるよ」
「そうだよ!」
「点けられた火はそのままでいい!」
 無謀にも程がある。
 持っていた柄を奪われた驚きか。
 仕方ない。
「何しろ空から来られては」
「なにっ!?」
「どうしましょうレナうふふふふ♪」
「いいぞ?」
「二人も来てくれ」
 征服は容易だと思われていた。
「保守派の若手というと、御堂の小倅か」
「うん」
「俺は中央線だから」
「ええ、モーリスは必ず勝ちます」
「おぅぉ」
 モーリスとエリーはレナの言葉を聞き、顔を見合わせ頷き合う。
 だが、この少女の機嫌を損ねる理由もないので適当に同意しているだけだ。
 俺は気づかなかったわ。
「そうそう」
「ごめんね」
「つまり、諸侯、彼らが傀儡を探し回ってる間の、空白を狙うというわけね」
 尤もアキトに至っては一瞥。
 ここ数十年を振り返ってみれば桁違いに最大の損害でもあった。
「はい、諜報活動を行うには一人では不可能でございます」
 掌に小さな光が生まれ、急速に巨大化していく。
「了解だ」
「元気になってほしいだけ」
 俺が居た建物は、中心付近に位置していた。
 なんだって―っ!?
 これは意外に速い。
 けれど、ある種の確信を持って。
「何も違わねえ!」
「モーリス、あいつらを使おう」
「き、期待?」
「これで動けないでしょ」
「バカ言うな」
「なんだよこれ!?」
「なに?」
 そのまま再びヒソヒソと話し始める二人の様子に先程まではあれほど気になっていたかるただが、今はそれどころではなかった。
「うだああぁぁぁ〜!」
「み、視えるっ!」
「それ!」
「アキト」
「本当に今のところは順調なんですよ」
「わかりました」
 そろそろ謁見が始まるらしい。
「確かに、お前さんから感じられる力は凄まじいものだ」
 その直後であった。
 恐らくアキトだろう。
 俺もコイツほど酷くはないと思うが、世の中結果が全てである。
 しっかりそれを聞きながらも微妙にずれたツッコミをする試験官だ。
 迂闊に手を出す事すら許されないものばかり。
 モーリスがレナから地図を受け取り、無精髭の生えた顎を撫でる。
 モーリスやエリーよりも魔法の引き出しは多くあっても、底は浅い。
「危ないと思ったら逃げろよ?」
「……あいつ、何かやらかしたの?」
「そしてその行方不明者の共通点は魔法が使える者だった」
 …しっかしこの金額には参るなぁ……。
「なんだ緊張してるんのか?」
「やはりそうか」
「どうすんだよ!!」
「失敬な」
「……ん」
「いいだろう!」
「はずってなんですか、はず、って?」
「秘密なのか……」
 寒がりなんだろうか。
 微塵も苦戦をしていない。
「彼らと共に鍛練を積めば、最低限の実力は得られるだろう」
「こんなアキト場じゃなかったがな」
「お前の発想が面白いわ」
 若干2名程。
「少し悪乗りが過ぎましたね」
 されど彼らの周囲はそれ以上の惨状だ。
「リヒテンヴァイン」
 レナの頭を撫でつつ、直ぐ終わるからとしか言えない。
 一体なんの用だ?
「お願いがあるの」
「直にこの場へも駆けつけるでしょう」
「いや、初耳だな」
 全ては本当に一瞬で、だから迷いがなかった彼女だけが答える形となった。
 その点、自分自身が持つ場合とは一長一短だ。
 別に俺達が頼んだわけではないんですけどね……。
「みたいですな」
「エリー!」
 煙がもくもくと広がって、呼吸も困難な状況だった。
 しかし、何も解決はしていない。
「そうか」
「待ってください」
「なんてふふふ♪」
「えらいなあ、エリー」
「楽しみっ!」
「ひぇっ」
「縋るもの、魂の在り処を求め、嘆くもの」
「南はだめ」
「――わ!」
「俺が強くなる為だ」
 俺達が持つ魔力は、霊力とはまた違った力の源。
「死にさらせぇっ!!」
「影の中ですって!?」
「きゃん」
「今は大人しく、耐えなさい」
 相手は常に必殺の間合い。
「……エリーだけでいいのに」
 起き上がったレナの指摘で見上げた先にあった影に吠える。
 様々な外的要因と内的要因によって未来は刻一刻と変化し続ける。
「見つからない程度で!」
「仕方がない事とは思ってはいるが、それは俺の理屈だ」
「……は?」
「そりゃあ、びっくりするくらい、不味かった」
「……うん」
「あ、よかった」
 すると、気持ちが楽になって来た。
「異邦の化け物が我らと似た術を?」
「そうだ」
「そうですね」
 怒りの溜飲を下げるかのように蔑んだ老能力者だが、嘲りに返る声に動揺がない。
「だから俺はなんとかその本命の痕跡を見つけられないか調べた」
 アキトがいる可能性は、レナにとっては予想の外にあった。
 そう思えて仕方がない。
「内通者がおるのだろう」
「耳が痛ぇよ!」
 だれかが気炎を上げる。
 女性というよりは甲高すぎる声の主は、どうやら十字架のネッモーリスから出ているようだ。
 普通の大き目の一軒屋といった所か。
 状況もエリーのことも二人の敵のことも頭から消え去っていた。
「そうですよ、空」
 その様子はエリーの目から見ても図星を差されたかのようだった。
 そんな雰囲気にもバイゼルンには感じ取れた。
「……ですから最初にお許し下さいと言わせていただきました」
「で、出た!」
 そして――。
 普段なら視える筈の対象者が、影も形も無かった。
「アキト……」
 多分全て知って居る……と思えるような表情。
「俺も何か手伝いましょうか、レナ」
「……前回は小学生だったからかギリギリ最後までされなかったみたいだが、今はもう……」
「ちょっとびっくりするような話を聞かせてもらっただけだよ」
「寝巻き、新しいものは浴衣しかなくって」
 レナの足許から火が吹き出す。
 もしや自分達の考えの方が間違っているのかと。
 カレの腕が言葉より先に振るわれる。
 あの時、すれ違いざまにレナへと殺気を叩きつけたが、彼女は意にも介した様子もなく先へと走って行った。
 牙と爪の攻撃をくぐり抜け、喉を裂き、叩き落す。
 息はあっても一目では誰かも解らぬ程の火傷を受けた誰かが。
 レナも目を丸くして驚いている。
 エリーが巣穴を見て言った。
「分かりました」
「もう少しお待ちください」
「そのお礼もある」
「あいつはいつも自分のことで手一杯だからな」
「俺はともかくお前らは終わったな……」
 おっと、小学生にもわかってしまうのか。
 家の玄関が開き、入ってきたのは常識的な範疇を乗り越えた男。
「……わかりました」
「おかげですっきりしたよ」
「まぁ……なんとなく分かるよ」
「あっ、そうだ」
 この距離だ。
「ですけど、予知夢を視たのは俺ではなくレナの方だったのです」
 エルツを包囲してから結構な日にちが経っているのに、いつまで待っても総攻撃の命令も出ない。
「相手にしてないから細かい理由は知らないけど、面白くないんだろ」
 が、アキトの登場により文字通り首輪をとりつけれた形でなんとか生き延びる。
「ギンカ?」
「人気の忍者装備だって!」
「情け容赦なく」
「すいませんでした」
「あんなはした金でこの俺を使いやがって、給料あげろぉっ!!」
 鋭利な刃が迫ってくる。
 どこかの骨が折れた音がした。
「生は呪縛」
「痛みを体で覚えなさい」
 これは早めにもう一度聞きに行くべきだろうか?
 全てを思い出した。
 首に!
 ――ぎっくぅ!
 露骨な手のひら返しをした連中には今でも敵意以外の感情がない。
「あ、ありがとうございます!」
 まるで誕生日にオモチャを貰った子供のようにレナは喜んでいた。
 発言をいちいち気にしていたら話にならない気がする。
「そうだ」
 そこでの突然の舌打ちと共に起こった突然の浮遊感。
「げっ!?」
 レナは多少沈黙し……少しして
「すまない」
「ここは秘密の工場らしいからな」
「……うそ」
「ですが」
「そろそろ叩こう」
「なんか全部台無しにしているというか、雰囲気ぶち壊しだよな」
「アキトもそうだったよ」
「真面目にやっても、どっかそういうふうに思われる」
「エリーは、連休はどうすんの?」
「仲間ってのは」
「ううう……モフモフ……」
「いえ……」
「振り向いてる暇があるなら逃げたらどうだ?」
 そんな中でも、レナは平気な顔でバランスを取ってステップを踏む。
 格闘、耐久力増幅。
 後ずさる。
「まあ、とりあえず基本から教えていくから、そのうち教わりたいものがはっきりしたら、そう言えばいいさ」
「ち」
「我は、アキトと命を奪い合った仲だ」
「えぇ……無理やりにだけれど仮の話だとして、全てを信用するなら、今までの話は理解できるけれど……でも……」
 代わりに成績が落ちると普通科に戻されることもある。


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