YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159554話 著・妹尾雄dAI

「うん、そうしてあげてくれるか?」
「さあ、一気に行っちゃいなさい!」
「分かりました」
 ヒースの叫び声が響いた。
「なんと、言ったものかな」
「俺はあんたのことが……」
「ええ、こう不思議というか」
 三人で並んでこっそりと覗く。
 ─────ウオオオオォォォッッッ。
 あぁ、早く。
 最早鉄の塊だ。
 至近距離で爆発されたため何が起きたのか分からないのか、浩介は火傷をした右手を見て顔を顰めながら訊ねる。
「どうぞどうぞ」
 咄嗟に床に身体を投げ出す。
「ちょっと待ってろ」
 ただそれだけを考えて、彼らは活動している。
「そうですか」
 浩介は自分が狙われながらも冷静だった。
 それを見越して更にそれを挑発しているが、双方それは決して得策ではない。
「目的の一つに、ヒース候補生」
「俺も腹をくくった」
 ――それに。
 それらを使えばいずれ教師たちもそのようになるであろうと言外に含めての進言。
「わかりましたか?」
「まあね」
「じゃあ答えるか」
「説明しろ」
 振り返る視線の先に大柄な不死者が迫っていた。
「亀裂が発生した場所は、墜落現場から直線距離にして1km程離れた場所でした」
「早く寝たほうがいい」
 そうして結界陣の構築に入り2時間程経った時でしょうか……今まで不安定な状態だった亀裂が突然安定の兆しを見せ始めたと思った矢先、突如として亀裂の中から大量の妖魔が湧きでてきたのです。
「薄闇世界には大気中に魔力がないはずですよね」
 のっけからの縛り設定とはなかなかに厳しい世界だ。
 さすがにこの場には俺一人というわけではない。
 解体させるとしても、もう少し彼女の実力を確かめてからだ。
「おかえり、鈴菜」
「そうですね」
 埃かぶっているが、戦いが終わったら埋葬してやろう。
「この地へは旅の途中で立ち寄ることになりました」
 真っ直ぐとティアナを見据えながらも、原因は違う処にあると告げる鈴菜。
 悔しそうな顔で語るラヴァルと別れ、皆が休む場所へと戻る。
「へっ?」
「あ」
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「……今日は変な事しないでしょうね!?」
 まばらな拍手。
 それぞれの想い。
「今からでも遅くない」
「興味ねぇな」
「さすがだね」
「……分かりました」
「鈴菜にも散々聞いて回ったのですけれど、誰も知らないといって結局見つけられず、お礼も言えずに今日まで来ました」
 飛びかかってくる前に攻撃をぶつけるつもりだろう。
「ううん」
「調節が必要なのね」
「……はい!!」
「それもだし、今のままじゃ燃費が悪過ぎる」
「う、う、うわああぁぁっ!!」
 抜いた武器は槍。
 受けた本人を感心させただけで慌てさせる事も傷つける事もできない。
 霊気を噴射して直進しようとする矢を邪気をまとった剣が叩き折らんと拮抗した。
 左翼&右翼。
「……知らないのかしら?」
「そうみたいですわね」
「ふん……」
 剣が僅かに、振動を示す。
「ようやく動いたか、我が姪よ」
「また俺と勝負してみないか?」
 浩介の思考をかなりの精度で読めるようになってきた。
 前回の交渉で、そのような会話を交わした記憶があった。
 鈴菜が無下に告げる。
「一発殴られて死体担いでる奴もいるけどな…」
「これがセキオライトでできた砥石です」
「けどあれはどう見ても聞く耳なしの暴走大特急じゃない!」
「現在の姿を一種の変身と捉えることによってスキル発動までは筋肉が縮小して元の形になる形になることができます」
 それともこの男に対してだけこうなってしまうのだろうか。
「今日」
 俺は簡単混じりの溜息を洩らした。
「いや、包帯を巻いてそのまま送ってった」
 とにかくまずは会える段取りをつけなければ。
 しかも、相手は俺が召喚された世界とはまた別の世界。
「これぐらい一人で十分!」
 少女はもう少し幼い。
「身長と体重!」
 温かった。
 その瞬間を待っている。
 珍しい組み合わせもあったものだ。
 準備詠唱は長くなりがちだ。
「ちなみにお相手は医者と弁護士です」
 いつもなら、だが。
「ギリギリまで引き付けて撃つこと」
 だが、敵の数は予想以上に多く、それもまた破られようとしていた。
「ホントに理解してんの?」
 かなり先でうめいてる。
「その代り、彼等は特殊な術をいくつか使えるようですが」
 本音を言えば同時に進行できる組数がもう少し欲しかったが、期間がかかる事が折り込み済なのを考えれば十分だろう。
「もしかして以前琴が俺に聞きに来た、異能持ちの男に関係があるのかしら?」
「あ、はい」
「はい、タオルも使ってくださいね」
「はい」
 闇の中を進むと商館が見えた。
 むしろ、その表情は穏やかと言っていいだろう。
「…………どういうこと?」
「さあ!!」
 ……ザシュ!
「あわわ!?」
「そんなに腫れてるか?」
 そんなどこか末恐ろしい事を口にして周囲に散らばる生徒達を見る。
 片手で茂みを掻き分け、やって来る。
 風で揺れているのではない。
「それで、そっちはどうなったの?」
「本当にありがとう」
「行ってくるよ、ティアナ」
 器のすみずみにまで巣食う魔力の糸は、鈴菜の魂を少しも傷付けない。
「えらいなあ、ティアナ」
「……浩介の魔術素養は特殊らしくてな」
 と俺は仕方ないなとそのまま受けてたとうと拳を突き出す。
「……ああ、確かにそうだったな」
「ただし、俺が見たところでは、すべて大型種でした」
 行方不明?
 その単語に俺は更なる気持ちの高まりを覚える。
 ゆっくりと少女に近づいたヒースはふわりとその頭に手を置いた。
「まぁそりゃ慈善活動じゃないんだから協会運営には必要な事だと思う」
「二人が喧嘩してるってわけじゃなさそうだね」
 あれ壊したのあいつらの責任とかにならないか?
 一度出発すれば、死ぬか、戦闘継続ができなくなって帰還するか、勝利するかしかない。
「今、俺が君について知らないことはない」
「何しろ命がけだから、慎重に行こう」
「惨めだなぁ……その哀しそうな顔」
 これは敬意だ。
 この前とは違い死に戻り機能は既に回復している。
 要出典。
「もう一度いいますよ?」
「鈴菜」
「……はぁぁぁぁぁあ!!」
「あ……何でもないや」
「あなたは悪くない」
「フフフッ」
 ほんとご苦労なことですね。
 そう思いながら会話を始める。
 当たり前だ。
 右手も指は一本も残っておらず、頭部も罅だらけで下顎は右半分が欠けている。
 何も得られないまま、自分と浩介の差だけ思い知らされて、一日が終わる。
 そして探査で確認するまでも無く屋上からは鈴菜も侵入し、めちゃくちゃ張り切って暴れまわっている事だろう。
「採掘場としての機能も、もちろんあったんでしょうね」
 天井を見上げ、痛む身体を動かしうつ伏せになる。
「もう……一押しだあああぁっ!!!」
「ハハハ……」
「離すかよおおぉぉぉッ!」
「宜しくお願い致します」
「ちょ、あんたぁ!」
「これはどういうコトだ?」
 楽しいかどうか解らないけれど。
「俺がやるよ」
「相変わらず、面白みのない答えね」
 単に頭に当たった者。
「まさかあんたの魔ッ……いやあっ!!!」
「4種類?」
 今更病原菌もクソも無い。
「人の話を聞くのは大事なことよ!」
「……翼人」
「あれは」
 ずれた眼鏡をひょいと取り上げる。
 冒険科こそ弱小で閉校寸前まで追い込まれているものの、錬金科、魔導工学科、魔導理論科、共に尖った成績をおさめている。
「そっか……そうだよね……」
 そこは複雑に配管が張り巡らされた薄暗い空間だった。
 一人終了。
 急速落下中!?
 しかしコイツはヤバい。
「いったいなんのっ…!?」
「――冗談だろ!?」
「いいか!!」
 血が出てる。
 鈴菜はティアナの前に跪き首を垂れる。
 勝った。
「効かねえよ、お前らの攻撃なんか!」
 自慢の友だと言ってくれた彼の傍に。
「残念ですが、恐らくは殺されているかと」
「どうしました?」
 息を切らせてやってきた伝令。
 その事を鈴菜は嘆いて居る訳だが……。
 どれだけ恐ろしくても殺さない者より良い存在のわけがない。
 左折探索法とは、すべての曲がり角を左折していって行き止まりにぶつかって帰る時、すべての分岐路を右折すれば入り口に戻れる方法のことを言う。
「死にたいのか、復讐したいのか、力をつけたいのか!」
 いつの間に逃げたの!?
 なんとかしたいところですが、今はそれどころではありません。
「俺からもお願いします」
 普通に育っていればこうなっていたであろう姿や性格は彼が一番近い。
 見ればティアナが途中で教えてくれた通り既に戦いが終わって少したって居たようだが、鈴菜は未だに肩で息を弾ませていた。
 本能で身構えてしまうのだろうか?
「たかい、たかい」
「なんとか1勝だよ」
「人に酔うって言ってたな」
「どうですか?」
「良い人だったのに……」
 その限界を調べるとき、もちろん危険がある。
 それを見やって俺も苦笑いを浮かべつつ肯定する。
「ま、まて!」
 ティアナの覚悟を見た。
「そう思っていたのに……!」
 鈴菜たちはあえて俺の手で気絶させる。
「俺もチラッと聞いたのは物量で押すか、少数精鋭で突撃するかでしたけど」
 ―――――――――――――。
「今日言って明日準備が整うわけではありません」
 警戒しているのだろう。
「ヒースも」
 だがその威力は想定されていたものを大きく上回るものだった。
 頭の中で響く懐かしい声に、頷く代わりに、浅い息を吐き出す。
「……消えたね」
「目を回してたらしいですね」
「かなりいるな」
「俺も腹をくくった」
「相手の顔も覚えたし」
「え?」
 今まで飛ばしてなかったの?
「昨晩ヒースが来て大体の所は聞いた」
 そんな存在が死霊魔法の影響下で生前と同等以上の力を発揮する。
 浩介への信頼ではなくその裏の開発競争を自分達もやっているから。
「あぁ……うん、続けて?」
「いいぞ!」
 ティアナが口を挟んだ。
「いい加減、俺のことは忘れろ」
 間違いない。
「ザッツライッ!」
「カウントの仕方だ!」
 浩介は呆然とそれを見ていた。
「見損なったぞ浩介」
 鈴菜だしね……丁度良い剣があるよね。
「ティアナはからかうと面白いし本当にそうなったら解りやすい子だからね」
「魔力量に関しては、生まれついての素養があるのでどうしようもないのですが、魔力を注ぎ込む速度は訓練によって速くしていくことができます」
「ああ、それは……うん」
「………お聞きしたいことが、あります」
「寝ているものは仕方がない」
「こっちは何とかなりそうだ」
「生徒」
「ご、ごめんなさい……」
 駆け引きも技も戦術も何もない力技によるただの正面衝突。
「俺、虫系は駄目なのよぉ」
 存在の階位が違う。
「これなら何とかなりそうだな」
「心配してくれてありがとう」
「残念だな、仲良くなれそうだと思ったのに」
「ここ迄だね」
「俺もですわ」
「誰にだ」
「…わかった」
「お願いできるかな」
「技術科担当の試験官たちです!」
 姿かたちは見えないけれど、きっと鈴菜の表情は苦悶に満ちているのだろう。
 そうバツの悪い顔を見せながら反省していると、鈴菜はすかさず続きを口にする。
 眷属はまた追々増やせば良い。
「う……」
「……近づけば、お前らは斬られる!」
 ティアナは、そんな俺が能力者をやっているなんて知るわけも無いから、単に興味本位だとでも思ったのだろう。
「おっ、軽いね」
「もう決まっていた」


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