YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159493話 著・妹尾雄dAI

 自らの力を宿した武具を一部の勇敢な人々たちに授けた。
 自前の霊力での防御が間に合わない。
 敵対者は牢獄に、氷の壁で阻んで現実と隔離させる。
 生贄を並ばす平坦な場所にいくつもの側溝が迷路のように伸びて祭壇に繋がる。
「おお!」
「どうした、リン」
「今考えただろ……」
 開口一番にレナが発した言葉は謝罪だった。
「どうしたんだよ?」
「早すぎやしねぇか?」
 反撃はさせない。
 この宝玉を得ただけでも、この世界に来た意味がある。
 理由は簡単。
「いつでも俺に言えば疲労を吹き飛ばしてあげるのです」
 もっと早くこうするべきだったとも思う。
「なに?」
 そう、思わせるほどの一撃。
 鋭き爪に牙。
「はい、ヒース」
「うわ、あ……」
 浮き上がって砂から脱出したゲルトは地表近くで彼女を見据えた。
 その佇まいには気品さえ漂う。
「リン、さようなら」
「つめたいの、たべてね」
「ありがとう、ゲルト」
「試験だったから」
「ありがたきお言葉でございます」
「あまり高級じゃない…ルリンに怒られるな」
 暗殺者の侵入者を許した責任は誰かが取らなければならない。
 同時に、リンの身体もまた薄っすらと黄金色の光が包み込んだ。
 一瞬だけ呆気に取られたリンは我に帰ると素早く指示を出した。
 俺は、こういうことがあるだろうと予想をしていた。
「そうか」
 !
「だがな、ゲルトは違う」
 彼の眼前に展開された金色の薄くとも強固な膜がある。
 二重の意味で。
 そして相手が魔法をスカらせたら、それはこちらの好機となる。
 ないまま飛び散った自らの鮮血の中に沈んだ。
「貴様との問答は後だ」
「そんなことを今更二十代にもなって、教えられなければならないのか?」
 突発的な事故ばかりは偵察でも発見できない事がある。
「……なっ、なに!?」
「はんっ、素面ならともかく今は全身にスキルかけてんだ」
「それがだんだん、優越感になった」
 もちろん、魔疎という条件下、聖霊剣こそ振るっていたものの、魔法が使えないレナの実力はほとんど出せてなかったに違いない。
「レナの魔道士たちも、魔石と同じくらいお殿様にとても大事にされていたのに、魔石が欲しくてお殿様を裏切ってしまいました」
「そ、そう……やさしいのね」
「お、お前……!!」
「なんだ!?」
「……ッ!!」
 言外にいうことを聞かなければハチの巣だと告げられ悲鳴もあげられない。
 悪くいえば目が死んでいる。
 覚えたての魔法で敵を殺せることがわかり、レナは喜々としてこの妖魔を殺し続けた。
「これについては数日前から琴ちゃんと相談していた事なんです」
「でも今は違うんだよね?」
「うむ」
「今回の件」
「封魔結界の発動」
「アハハハッ!!」
 もしあの場にリンがいなかったらと考えるだけで背筋が凍る。
「それをしてリンン自身に何か利点でもあるのか?」
 それゆえ、ある程度重要な場所を選んで、人を張り付かせている。
 また魔力が上がってしまった。
 確かに、そう言われると、リンも頷かざるを得ない。
「ちょっ、おま…」
 柔軟な軌道ができないでいる。
「よし――もらう!」
「レナ?」
 ここで諦めたらもう、きっとお前は引き返せない。
 お前がキレてどうすんだ。
 俺は泣きじゃくる彼女の肩にそっと手を寄せた。
 レナはちょっと考えると、ゆっくりと首を振ってみせた。
 …うん。
 突貫。
「そんなに分かりやすい?」
「俺はお前らの手足!」
「やってくれるか!?」
 俺は気づかなかったわ。
 それどころか力を。
 だとか。
「はいよ」
 それまで通りできると思えるほうがどうかしている。
 レベルが上がり、力が上がる。
 細かい裂傷や擦り傷、打撲の跡が両腕の至る所に合間を縫うようにして作り上げられている。
 その後彼――三代目がどうなったのかは分からない。
「道はお前が切り開いてくれるか?」
 こんな疲れる戦闘はもうこりごりだ。
 ヒースはこの辺りの地理にはそれなりに詳しい。
「俺は、レナの体を使って全てを壊すつもりなんだ」
 時間を止める、か。
 肩に担いでるレナに聞こえないよう、弱音を心の中で呟く。
 非常食に用意していたシリアルがあるが、唾液不足の口内を滅茶苦茶にされるだけだ。
「ある意味それはどうでもいいですの」
「我らが生きている間に解かれるかどうかは怪しい所でしょう」
「だね」
「リンの言う通りです」
「そうだね」
「そうですね」
「そうです」
「やはりそうでしょうね」
「道中も危険ということですか?」
 答えに迷っているのかこちらに振り向く先頭の剣士。
 この意見には全員が頷いた。
 そう思った時だった。
 気配を消して居たレナが、こちらに向かってくる敵の背後に行き成り現れる。
「ラゴスを代表いたしまして、お礼申しますわ」
「ご回復おめでとうございます」
 それでレナとの会話は一旦終了した。
「ふぅ……」
 俺はそう思わずつぶやいていた。
「えいりゃ!!」
 なので俺もラケットに魔力を込めて、迎え撃つことにした。
「ふはははは!!」
「もうここまで来たら、突っ込めリンよ!!」
 彼らは何もしてくれないわ……。
 後ろにはレナも居る。
 悲鳴のような驚愕の声を出して顔が青を通り越した白となるリン。
「楽しい日曜日だっていうのに」
 最初の魔法はゲルトの想像を超えていた。
「あなたを探していたんです」
 地下2階は一体どんな場所なのだろうか。
 俺はたまらず口をはさんだ。
 再戦したとして、この悪食には欠片も勝機がない。
「でも悪かったな」
 これまで。
「今回のアビス討伐は死者が当たり前に出てしまう!」
 その肩を軽く叩いた。
 そこはゲルトも不思議だった。
「そういうことになりますね」
 自演にしたって今の在り方は愚策だろう。
「終わったね……」
「――ッ!!」
 自分達の身近に爆弾を取り付けられた事に怯える子供を見事に演じきり
 ───のちに彼女はそのことを激しく後悔してしまうのだが。
 仮に言うと、生まれたA男子へその力が伝わったとしても、そのA男子の子息Bや子女Cにはその力は決して伝わらない。
「及第点だな」
「何か疑問が?」
「そうねぇ」
 血煙があがる。
 境内の中に入っていくと、ざわざわと枝葉が揺れ動き、若木とも言える木ですらも幹を揺らして騒いでいた。
 闇雲に振り回しているわけではない。
「こっちも先の道へ引くぞ!」
 身体もついていく。
 そう言いながら、再び跳躍するリンは、あっという間に屋根の上まで飛び上がっていた。
 どれだけ凶器をふるっても傷つかない化け物に皆怯えて。
 容易に他人を陥れたり、権力を操る事が可能になってしまうためだ。
 蹴りと刀がぶつかる寸前に呟き、ただの蹴りに重力魔法の力を与える。
 ついに雲の下へ出てしまった。
 少なくとも当人はその不運の積み重ねをそう思っていた。
 尤もそれは。
 当然それを快く思わない人達にとっては邪魔な存在である。
 発現系の魔導士というだけで恐ろしいのに、雷撃使いなんて想定外にもほどがあるだろ!
 レナが顔を上げ、ぱちくりとまばたきをする。
 しかし身内に改めてそんな事を言う心配があるという事実に、自分の顔が更に歪むのを感じながら話を続ける。
 ゲルトの記憶も無いし、文献にも記されて居ないんだから、教えて貰えないかなとは思っていたけど。
 俺の偽らざる心だった。
 その結果。
「我に捧げるが良いい!!」
「血を流して死んでいるんだよ」
 実際に稼働できるかの実験も兼ねていたのかもしれない。
 ゲルトが軽く息をついた。
 ところが、今日は普段と調子が違った。
 まるでどっかの松〇リンみたいだ。
 驚愕して反射的に下ろしていた腰を上げ、鋭い回し蹴りをヒースの眉間へ放つ。
「あと1か所どうしても見て頂きたい場所がございますわ」
「任せてください!」
「そんなことってあるの?」
「行くぞ」
 距離が近くなる数十人の人影。
 多少の傷は負ってもいい、まずは間合いへと入りこむことが重要だ。
 悩みどころだ。
 同時に瘴気も彼の体の中に引っ込んでいった。
「……ここを切り抜けないといけないわけだが」
「聖女」
「そして巫女」
 中には木が動いていたという目撃証言もあります。
 なんというか、とんでもない新年の迎え方をしてしまった。
 ――――――――――――――。
 普通に考えれば俺なら絶対に行かないけど、行かざるを得ない理由があったのだろうか?
 モモは思う。
 一度起き上がる。
 ヒースは頷いた。
 ドクンと心臓が鳴った。
 そもそもあったところで読み方分からないし。
 だが、リンは休む訳にもいかなかった。
 すると、いままで感じ取れなかった気配の移動もなんとなくだが、分かるようになった。
 ただ前者が武器の側面が強く後者は日常品なためそも比べるのもおかしいが。
 鼓動の高鳴りも、筋肉の状況も、最善を尽くして戦うことが出来ると自分自身で分かる。
 この作戦が成功すれば正面に集中できるようになるため、氾濫の終結もすぐだろう。
 ツルハシを振るってバイゼルンの中を突き進んでいたころ、俺はあることを考えていた。
 唖然として地面の穴を覗き込んだゲルトがごくりと喉を鳴らす。
「そっちは任務に失敗」
 攻撃をする隙を与えず、速攻で殲滅するのが一番よい。
「スゴイです」
 いくつかの質問の後で、生地はお手上げだとばかりに肩を竦めた。
 レナから伝えられるだろう言葉がわかっていても、辛くない筈がない。
 この場にいる者には到底受け入れがたい考えだった。
 しかし生活が続く以上必然的におよそ二週間ほど彼を見続けたレナは。
 そしてそれはレナやリンにも言えるそうで、これは少し可哀そうだななどと思ったりもしたのだけれど、この3人に関してはどうやら他とは違ったものを持って居るそうだ。
 武装の暴走という事態に生来の生真面目さと責任感が空回りしていたともいえる。
「そっちの奴らより、少しは楽しめそうじゃないか」
「ヘラヘラしたかんじ」
「まあ、抵抗はしないよ」
「むっしっしっし♪」
 ……何れにせよ、ふと思い出しただけで何かその答えが出た訳でもないのだが。
「が」
 していてもそれは色の違う残像が飛び交っている程度しか見えない。
「魔法だって万能じゃねぇんだぞ?」
「ケツの穴ぁ増やしたいんだろボケが!」
 ヒトを主とした彼女─ヒースがヒトの姿となるのはいい。
 全くの同意である。
 これ、あれだ。
 そう言って懐から優待券を取り出した。
「なるほど」
「なにも、まるっきり入ってはいけないと言ってるわけではありません」
 故に彼女は言っているのだ。
 だけど結局興味も無いような感じでまた本に目を落とした。
 聖女の言葉はせいぜいこの一撃で死ななかったら善処しよう程度。
 実際。
 その隙にレナは身を捩るとようやく男から身を離す。
 視線をこちらに向けてはいないが耳はいつでも指示を待っている。
「俺の仲間が同行する」
「何ですか?」
「お前、本当に死んじまうぞ?」
「では、参りましょう」
 俺も面食らってしまって言葉も出ない程なのだから。
 それをほぼ一人で屠ったばかりか、たったの15分で片付けるその力量は推して知る程なのだが……。
「ふぅ……」
 さらに黒の力とやらを注ぎ込んだのか。
「ものの数分で牙どころか心までへし折った人に言われると怒ればいいのか笑えばいいのか」
「あんた思い込み激しいもんね」
 着地で少し姿勢を崩しながらも、少し苦しそうな顔を上げてこちらへ走り出す。
「今日言って明日準備が整うわけではありません」
 毒と薬が表裏一体であるように、皮肉にも破壊と再生に必要な魔導の性質は似ていた。
 ……地面を削り取るような爆発に巻き込まれ、生きていられる人間がいるのだろうか。
 しかし、その指示は間に合わない。
「人攫うのに話し合いできるとでも思ったのかね」
「てめぇ!!」
 仕方ない。
 それでふと思い出した。
「大変じゃないかっ!」
「お前は後ろで黙ってみていろ!」
 なかなかの切れ味だった。
「ハハハ……あの頃の俺は若かった」
 奴の身体を捕まえた俺は渾身の力で雷を放った。
 重力を自在に操り、人や物を軽々と飛ばしてしまう。
「少しは遊べ」
「分かってる」
「敵の出方がわからないので、いたずらに刺激するようなことはお控えください」
 聞いてみると、最初の出会いが原因で少し苦手意識を持っていたようだ。
「───黙れ」
 小さな行為に向けられた当然の小さな称賛は、だが不意打ちゆえの威力があった。
「一昨日の夜から準備をしておいたのですわ♪」
「ほら、そいつが持ってるやつ」
「それとも泥棒あたりが逃走しているのか?」


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