YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159492話 著・妹尾雄dAI

「我慢することにか?」
「後は雪だけっ!」
「なんだか消極的な話だな」
「そう指示を出しておきましょう」
「何というか」
 そして――。
「ガラにもなくな」
「ええ、あの場所だけ木が無くて何だろうと思っていたんです」
「武器の形状も受け流すのに向いている」
 危機感を覚えたらしい木霊がけたたましい鳴き声を上げる。
 …ん?
 そう思った時だった。
 丁度いいって何が?
 単に確認をしたかっただけだ。
「いや、無いな」
 ゲルトは微笑んで、ティアナの頭を撫でる。
「見ていただきたいものがあります」
 感極まる!
「ない!」
「うえ???」
「そういう意味でしたか」
「酔狂な話さ、だからじゃないが」
「力がいるんだ!」
 そうなれば流石にこいつも撤退せざるを得ない。
「巡回が間に合わないから」
「まぁいい」
「今回は何もないとは思うが気を付けろ」
「俺の知らない魔法がある」
「ヒースは盾にしていいぞ」
「よろしいですね?」
 顔だけではない。
「なら良いけどな」
「……到底考えたくもありませんが……」
 と首を傾げて不思議そうにする陽菜乃は、自分がどれだけ規格外のことをしているのか自覚していないようだった。
「おりゃあぁぁっ!!」
「そういう世界に生きているのですから……」
 新型あるいは試作のものだったのだろうと彼は推察している。
「これは何だ」
「そろそろじゃない?」
「ですね……もう完全に人ではありませんし……」
「もういいんだ」
「天才のあんたならできるって……」
 俺より強い豚に会いに行く。
 それでも、思っていたよりも良い出来に見えた。
「フッ、フハハハッ!!」
 自分の感情が、信念が怒りで染まっていく。
「ああ、そっか」
 三人で並んでこっそりと覗く。
「揃えられるものは全て用意した」
 光の剣はさしたる抵抗も無く、ヒースの肩を貫き背中にまで剣先が突き抜ける。
 間違いなくその場にいなかったゲルトが、吹き出しそうな顔で理想的な同意を述べる。
「……っ」
「ティアナのお体にあと3年は陽菜乃がいらっしゃいますし」
「あ、うん」
「ええ、それは能力者としての修行の成果よ」
「ティアナ、お前の魔法で先制するぞ」
 そんな法徳の疑問を知ってか知らずか、青年は肩を竦める。
「何を言ってるのですか?」
「なったなった」
「早速行くぞ」
 ゲルトの目にはティアナの表情が厳しさを増しているように見えた。
 ――ブゥゥン。
「最初は第一段階からだ」
 魔法ではない?
 何だか、尋問されている心境になるのは何故だろう。
「!?」
 必ず、俺は死ぬ。
「その剣、少し見せてくれないか」
 陽菜乃は痛快に笑い飛ばした。
「いや、無い」
 あれだって話は進んでいたはずだ。
「…俺、調子に乗りすぎてました」
 しかし、そんな彼らとは逆にゲルトは顔をどことなく嫌そうにしかめていた。
 グシャっと鈍い音と共に。
 陽菜乃が冷たい目を向ける。
 巨大な咢。
 様々に行われた対処。
 ……正気の沙汰ではないが。
「ふ、なるほど、伸びた指をだらりと下げていくことで、不穏な未来を暗示してみせたか……」
 なら、これでどうだ。
「うん」
 ヒースはそう言って指を弾いた。
「ただ面に戻しますと、探知をしようとしていることを相手に気づかれる危険性が高いと愚考します」
 ティアナと陽菜乃が指摘をしたのだけど、それは俺も気になった。
 ゲルトは赤黒い光を纏った左腕で、ヒースの全身全霊の一撃を受け止めていた。
 腰を落とし、柄に手をかけた構えのまま、目を閉じている。
 素早く陽菜乃は指示を出す。
「別に弱いものいじめをしているわけじゃ無くて、組合から正式な依頼を受けてここに来てんだ」
 負傷しても、辿り着いた時に生きてさえいればその命は繋がるだろう。
 それに。
「……ごめんティアナ……俺も認識が甘かった……そんなに多いとは」
「やっぱり変わらないわね」
 しかし、ゲルトは覆面の下で呟きながら笑みを浮かべる。
「…………」
 血が蛇口の壊れた噴水のようにドバドバ吹き出て、それが全部吸われちゃうんだもんなあ……。
 すでに礫はすべて使用してしまった。
 だけどえてしてそう言う時は更に色々と思い出す訳で。
 ティアナ男を気取っているのか口ひげを生やし、ゆったりとした濃緑色の長衣に赤や黄といった派手な色の帯を結び、その留め金には金や銀の装飾に宝石を散りばめた派手なもので、とても武人とは思えない格好だった。
「おお……動いてる……」
 至急増援を求む。
 戦いは消耗戦となっている。
 だが、とんだ思い違いだった。
 陽菜乃ル自身、ティアナに授けられた数々のスキルにより強大な力を有している。
 にこやかな笑顔で物騒な事を口走る彼に陽菜乃の背筋が凍る。
 それならば、ある程度筋は通る。
「いっくよ〜!」
「ここでは結構大きな家ですけど」
「微弱ながら妖気の糸がこの者から2本出ておりますから」
 だからこそ発言に他意しか感じない。
「何も異常は見られないね」
「能力者初心者か」
 恐らく彼女はこう思っている。
 そしてそれ以上を囀ればどうなるか解らないという殺意も混ざる。
 追加で五発の弾丸を、文字通り食らわせたティアナが、両手の銃から手を離した。
 ゲルトは地属性魔法だけならば、ほとんど魔力を消費しないのだ。
「毎回似たようなことを気にするから覚えただけです」
「間違っては無いと思う」
 しかもその一人はバイゼルンに本拠を置く能力者だ。
 年の頃はどれほどか。
 情報が入ってこないらしいのだ。
「どうなんでしょう」
「知りません」
「おお……動いてる……」
 ティアナが、服を作る工程に興味を持ったというのもある。
「見た目の通り俺は若いがそれなりの実力を持っていた」
「新しい指導者がそれを収める」
 そうだな。
「分かっていて積極的に手を貸している」
「目立ちたいからだよ」
 旗手に対して許される妨害行為は、旗を撃ち抜く、又は折る、の二つだけである。
「そうだなぁ」
 今後の事を話し始めるとキリがないし、昔話を聞くにしても人数が多いのでこれまたキリがない。
「知識不足で君がいなかったらもっと色々手間取ってた」
「う……!」
「ゲルトぃぃぃ!!!」
 把握数を増やすしかない。
「そんなものがあるの?」
「悪い予感がする……」
 盛大に頭突きをかましたらしいのが見てとれた。
 だからと言って巨大亀裂に結び付けるのもどうかと思うけれど、もしかして……。
「あなたは決めたんでしょう」
 何回か引っかかる前提の練習かよ……。
「堂々としてな」
 あまりに侮蔑的な物言い。
 クソ、気になるじゃないか。
「何でもないです」
「何だよそれ」
 ですがその中で最もヒトにとって脅威となったのは別のモノ。
「よし、そこへ行こう……ってもう、向かっているのか」
 今回の襲撃事件。
「くっ、なんだ!?」
 確信犯でしかない事は丸わかり。
「はい、ゲルトですけど」
 此の女が。
「てめえ以外は有象無象だ」
 その頃俺は、すでに離れた場所で姿を現している。
 もはやそれは誰にも止められない。
「はいよ、ちょっと待ってな」
「魔力が生まれつき強いひとは、鮮やかなキレイな色の髪とか目になるんだよね」
 ズドムッッ!!
 将校の怒声がとぶ。
 同時に俺のMPも限界だ。
「え、何言ってるんだよ、うお!」
 やったのは紛れもなく、自分。
 もしもレベルアップ時に襲われたら―――いや、本当は理解していたんだ。
 ゴクリと唾を飲んだ青年は蛇に睨まれた蛙のように、悪態をつきながらも女性から顔を逸らす。
「でも……」
 このままだと、ゲルトの体は壊れてしまうだろう。
「まさか……」
「貴様ぁ?!」
「さっさと決めてください、後始末が残っているのですから」
「あんた思い込み激しいもんね」
 武力前提の策であり、多くの人の命が失われる。
「なんで浮いてないんだよ」
 ……なんでそういうところは人間っぽいんだよ。
 相手の硬さと渾身の一撃が回し蹴りと拮抗している状態に愕然とする。
 更には彼らが何をしているのか、何を狙っているのかも伝えた。
 堅牢で剥き出しな頭骨。
 ただし、人が使う部分だけだ。
 大きいというだけで、人は強烈な圧迫感を覚えるものだ。
 しかし、箔付けに勝利が確定された戦場へと派遣されるというのは、ある程度の自尊心がある者ならば嬉しい話ではない。
 魔道士たちよ、棺に入れ。
 その時――。
 俺より年上っぽい。
 約十発マトモに当たりさえすれば、大型アビスに致命傷を与えることも出来るレベルだ。
「一撃で壊れなかったぞ!」
 魔力を封じられることで、ティアナの強化魔法が強制的に解除されてしまったのだ。
「そ、そりゃそうじゃ!」
 あの時の悔しさをバネに、新しい魔道は開発済みだ。
「理論も修めていない子どもだぞ?」
「いっくよ〜!」
 彼女達は知らない。
「うむ」
「その刀の出自は……お前も聞いておろうが陽菜乃が下知なさった物だ」
「で、同じ動きを」
「っ…」
 これを繰り返します。
「うぐうぐ……きゅぅ……」
「立ち入り禁止」
「何の質問だ?」
 人を拒絶する険しい地形と広大な自然が残る秘境で凶暴な生物が多い土地。
「今はティアナの事なんて考えている場合じゃないからさ」
 その動きには一切の無駄がない。
 瞬間魔力で体を覆った彼には衝撃も熱風も来ず、バイゼルンだけが吹っ飛んだ。
 まるで彼らのほうが、自分から殴られやすい位置に飛び込んでいるようにさえ見えた。
「ふぉあ!」
「いいから!」
「お元気で!」
「チョンマゲはいるんだよな?」
 本来ならば手放しに歓迎すべき事なのだろうが、ここまで来ると違和感を覚える。
 かなり責任を感じてしまっていた。
「かなり強かったみたい」
「あははは♪」
 誰もが我先にと逃げだそうと駆け下りてくる光景に一階にいた客達も慌てた。
 なるほど確かに説得力のある言葉です……!
 俺の正面。
 陽菜乃は待っているのだ。
 俺の言葉で巫女達は分かったようだ。
「いや、良いとは思うけど、どう思う陽菜乃?」
「そうだよな」
「きみは護衛対象だから必ず守る」
「最初は門前に」
「っ!!」
「戻りたいんじゃないかって」
「今後ともごひいきに」
 最初に襲われて食われたのはこどもだ。
 そのためには汚名も被ることも厭わない。
「言われる前にそうしておけば言われずに済むぞ」
 上手く?
 きっとあの銀髪の剣士も、黒髪の魔術師だって、己の知らない彼の一面を知っている。
「じゃあ、ティアナ側が先行な!」
 だからこそ、安心出来る。
 それに受け身をとることもできずに背中を打った紅は苦悶の声をもらす。
「さっきも言ったけど、もう俺の力なんて必要としなくなったのだから、俺はゆっくり休ませてもらうわね?」
「あれは……勝てない」
「ちょっと話がズレちゃったけど、家に陽菜乃が来た事は偶然ではなく必然だったという事さえ解れば今はそれでいい」
 意識を遠のかせながら、ティアナは言葉を紡ぐ。
「家の時は、ゲルトがすぐ隣りにいるから」
「そうか……」
「ピンと来ない?」
 それどころか宿る魂を振り回すかのような狼藉。
「どうしてくれる?」
 男としては戦いの主導権を握りたいところではあるし、彼女にカッコいいところを見せつけたい。
「俺の知らない魔法がある」
 敵対したくなぞなかった。
「ゲルト?」
「油断するな!」
 ゲルトの言葉は、ヒースには衝撃的だった。
 一人あたり五枚から六枚の絵画を抱えているため、およそ三十枚から四十枚近くある計算だ。
 ヒースがバイゼルンで見た大きな人工物。
「うん、お願い」
「陽菜乃ぇ言い草だなおい」
「ま、俺がずっとサボってたせいだから仕方ないよね」
「えっ?」
「ゴミ蟲が……」
「ハハハ……ハハ」


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