YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159491話 著・妹尾雄dAI

 何せ毎日入れ替わる全員がこの状態だ。
 帰還者。
「作り方をですか?」
「今は使うより登録だけしとくか」
「声をちゃんと聴け!」
「なんです?」
「俺がいるではないか」
「それは楽しそうだね」
「このままでは!!」
「久しぶりだな、人間達よ」
 ゲルトは思い出して少し笑いながら、短く答えた。
「型破り」
 話題の落差にではなく、ついにそこに触れてきたかといわんばかりの顔だ。
「お前に言う必要はない」
「おまえたちの目的は?」
「あ、うん」
「おふくろです!?」
「誰かに似てるような……」
 世界に奪わせないように。
 そう言っているところで、目に入ったのは一人の男だった。
 いくら女に飢えていたとしても、いや飢えていたからこそ敏感になっていたのだろう。
「薪、もういいぞ」
「男の子だったんだね……」
 そう話す浩介は、変わらず穏やかだが、いつもよりどこか疲れているように見えた。
「干支が一回りしてるんだから何の説得力もないよ」
「それだとお偉いさんと挨拶かわす必要があるから嫌だなあ」
「その通り」
 やっぱ、駄目らしい。
「あぁ、うんわかった」
 逆によく見つかったなと思うくらいだ。
「否!!」
 今回練習試合の相手はあの武戦。
「リンに受け取って貰える良い案を!」
「あ、美味しいですね」
「俺で良かったら、食べますよ」
 間違いない。
「ああ、ゲルトか」
「さっきのは、邪気なのです」
「ま、まあそうかもしんないけど……」
「よろしく頼む」
「……い、いや」
「VIP用ですか?」
「おい!!」
「すごい……」
 プイっと横を向いたように俺の視界の届かない頭上へと消える。
 直系王族かそれに近い者しか閲覧できない記録にのみ記載された情報だというのに。
「陽菜乃やお仲間の方も心配しておられるでしょう」
「これは流石に放置できません」
「なにが?」
 ゆっくりとした時間が流れる俺の生活では、大きな変化はなにも起きていない。
「そうかい」
「目を覚ましたと聞いたけど、容態はどんな感じかな」
「前に言ったけどな、お前が成長する姿を見るのも俺は嬉しい」
「足手纏いじゃなければ付いて行くよ」
「そうなのか」
「あぁ、そうだな」
「おう、ゲルトの故郷か」
「じっと待ってられなくて」
「そんなに俺達を苦しめたいの!?」
 ギィィ、と古びた扉が軋む音を立て、開いた。
「剥離液だ」
「……はい」
「おそらくこれだと思います」
「あの男の子も……」
 そうなのだ。
「あぁでも浩介は仲がよかったよね」
「おいおい、随分と離れた場所にまでいい匂いが漂ってたぞ」
「その、詳しく?」
「ああ、いいよ」
 そういえば、外から見えていたけどやっぱり中から見ると爽快だな。
「逃げてきた人たちの中にいなかったのよ!」
「取って食う??」
 思いっきり拳を打ちつけた。
「そうだ」
「隊の仲間だけでなく、誰とでもだぞ」
「分かっています」
 よっぽど待ちわびていたんだろうか?
 問答はなかった。
「俺には選択肢なんてない!」
「なぜあんな軟弱なことを仰るようになったの!?」
 自分は、彼女のそんな部分が嫌だったのだ。
「リン、そいつらになんでもいいから猿轡」
「ああ……綺麗……」
 その女性をよく見れば、陽菜乃ではないか。
 リンはゆっくりとこちらを向いた。
 今は、十一時半頃。
「なかなかいいものが見れたぜ」
 二人だけの旅だ。
 無下にするわけにもいくまい。
 全員が投げられた生徒を担いで逃げるように食堂を去った。
「…………」
 でもここは謙虚に行く。
 それが正解だと分かっている。
 そこでふと俺はあることを思い出した。
「愉快愉快」
「言えばいいんだろ、言えば」
「あれはどういう現象なのじゃ」
 そんな簡単なことでさえ三千年の月日で忘れていた。
 俺はコイツを知っていた。
 机の上には燭台に乗った蝋燭が乗っている。
 普段見慣れたむさ苦しい野郎どもには無い癒しを、若き女性であるリンが求めて何が悪いのか。
「そう……だと思うよぉ……」
 流石のレグルもこの中では暴れないみたいだ。
「やめて!」
 ゲルトが来るまで傲岸不遜という言葉を欲しいままにしていた男子生徒である。
 問いかけるリンににっこりと笑顔で答えた。
 体も心も強い。
「やらなくていいよ」
「ここは陰月の路よりかなり南側なのに」
「いい?」
 ――あ……あのっ、あ、あたしは、何をすれば……!
「任せな!」
「そんな理由で!?」
 その姿に再び感極まっていた彼女に入り口から小声で呼びかけた上官。
 いきなり、声を出したことに驚いた陽菜乃は、首を傾げた。
「新婚、みたいなの」
「アレが?」
 それじゃ意味がない。
 だから頼まれれば俺は頑張るし、出来るだけ良い成果を残せるよう、全力を尽くす。
 事態は最悪に近かった。
「そ……そうなのですか」
 石畳がびっしりと詰まっている。
「そのために知恵を絞って、外交とか友好とかひねり出した感じみたいですよ」
「そう……」
「こちらが」
 もしかしたら、めい?
「それからリン?」
 そこまで放置してはいったいどんな惨状になるかわかったものではない。
 でいいんだよな。
「どこと言われると困るな」
「あっ!」
 俺間違ってます?
 醜く膨れ上がった腹、弛みきった顎の肉。
「次に件名」
「お〜」
「日にち間違えたんだって」
「遅くなっちゃったけど、おめでとう」
「あぁ……なるほど」
「それ以上のことは、何とも申し上げられません」
「はい」
「飲みますか?」
 俺は見学。
 心の中ではそう思ったとしても言わないで置く。
 裏を返せば出てきた以上、理由はそれだけでは無かったのだ。
「俺は陽菜乃の代わり?」
 知り合いといえば知り合いだけど、どう説明したものか。
「リンには今日から数日間の生活を支えてほしいと思ってるんだ――」
「ふあああぁぁ〜〜〜ッ!!」
「――失礼」
「じゃあ多分て言うなよ…」
「……心外ですね?」
「そうみたいだね」
 あまり気の進まない話に、思わず顔を歪める。
 魂が抜けているかのようである。
 何とも、聖女は自らの視線が他人に毒だとはご存知でないらしかった。
「かならずヤれる、心配するな」
「長老……」
 まだ、この土地の人間と接触したくはない。
 そう言うと、陽菜乃は祭壇の上から飛び降りた。
「ここへ来て、いいの?」
「勿論構いませんぞ」
「雪も大賛成です」
「お手を……」
「ほう」
「まずは退路を確保すること」
「音」
 微塵も気にしていなかったのに、なぜか無責任だとは思われたくないらしい。
 これは、共感。
「ああそうだ」
「四名ですか?」
「そうだな!」
「まあな」
「いや、普段はソロだぜ」
 …え?
 朝から最悪だ。
 うまいものに巡り合ったら、感涙にむせぶよりも先に、分析に励むべきだ。
 ―――――――――――。
「あなたの道を閉ざせなかったのがとても残念ですよ」
「安心いたしました♪」
「あぁ」
「是非ともよろしくお願いします」
 流し台に落ちてしまったお米を掻き集め、ボウルに戻して、再び洗い始めた彼女に一切の油断も行わず、目を凝らして見張る。
「まずは、気付かれにくいところから……」
「ああ」
 とリンが小さくかぶりを振った。
「陽菜乃は、すごいね」
「もう、いいんだよ」
 浩介の言葉に、ゲルトは首を傾げた。
 しかしそこに悪意があったわけではなく既に友人関係が確立されてもいた。
 自分の想い人のもとへと、向かう時くらいは。
 ――やるじゃねえか。
 この一言がどれだけ欲しかったか。
「助かったよ」
「話は聞いてるよ」
「みたいにさっ!」
「どうせバカじゃん」
「くれぐれも特別科生徒らしからぬ無様な行動はしないように、では───」
 予想の範囲内だ。
「地下で繋がってはおりますが」
 組織所有の、そのため、の場所。
 現在、園内から退去してもらった者達はみやっこで暴れようとしていた二人を合わせて十人。
「それは、敬いたくなる年寄りが言うべき台詞だぞ?」
「なにをする!?」
 そしてその瞬間とは。
 彼らが打ち合わせに集まるのを待った。
 大変で、とても重要な時期。
 これも俺は、見たことがない。
「あ……」
 早く彼に追いつき、助力ができるようにならなければ。
「いや?」
「じゃあ陽菜乃の完全な勘違いだったわけだな?」
「そうだろ」
「それも、インチキで手に入れた力なら当然か……」
 その交渉力は一定の水準に達しているはずだ。
 していなかったことが発覚して子供達も含めて名乗っていったのだが。
「いえ、ですがそれでも二人というのは結構厳しい――」
 さらわれて、こうなる運命だったなんて考えたくもない。
 頭で理解しているが言外に足手まとい扱いを受けた彼女らの表情は硬い。
「え?」
「最悪だよ、最悪」
「なにしてたの?」
「リンはまだお若いじゃないですか!!」
「おい、貴様」
「口の利き方に気をつけろ」
「足だけでも入ってみていいですか?」
「……そうね」
「あッ!」
「ぶはっ!」
「なによぉ!」
 確かにこれまでの行動が要約された物語になりながら描かれている。
「そうじゃ、倉庫に案内してやりなさい」
 古き戦友たちとの思い出を――。
 …お!
 なんだなんだ?
 周囲の状況と顔色から意味を読み取りつつしっかりと頷く。
「……ここって……ええええ?!」
「そうだね」
「次にどう動く気なのか分かってきて、あいつと動きが全然違うから」
 手際良過ぎて、これじゃ逃れられないじゃねえか!!
「はい!」
「俺はこれで失礼します!」
「陽菜乃が戻って来られた」
「あんた結構やりこんでるわね」
「まだこっちには」
「色んなこと気にして、決断が遅いのはいつもの話さ」
「だろ?」
 ――さて。
「皆おはよう!」
「今度は何だよ……」
「ハッ!」
「何でって……ラ、リンの気のせいじゃ……」
「探してみろよ」
「生徒たちと直接接触する姿はあまり見かけないな」
「外骨格を装着している相手と生身でやりあう」
「長く生きてきたけど男にここまで泣かされたのは初めてよ?」
 浩介とリン――そしてもう一人。


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