YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159490話 著・妹尾雄dAI

 後ろから、陽菜乃の声が聴こえてくる。
 実質的に見捨てたのだが、元々そうなるだろうという予測はあった。
 モーリスはそう呟いて、昔、自分が使っていた教本を開く。
 我が家でくつろいでもらえるのは嬉しいが限度というものはある。
「あたっ……わ、俺がなんとか……あれ!?」
「それはこっちに置いてくれ」
「今回は運が良かった」
 めんどくさいやつだな。
「それで、さっきのはどうしたんですか?」
「ほとんど何をいってるかわからないがバカにされてるのはわかるぞ!!」
「おい、お前ら、これはなんだ?」
「まあね!」
 声を出さず、涙を落とすレナ。
 技術提供の見返りとしての物資が無ければどれだけのモノが失われたか。
「構わない」
 しかし、俺は思わず舌打ちをした。
「うん、似合ってる!」
「あの憎い女の顔を!」
「……うるさい……」
 どうみても先ほどの子だろう。
 理由とその結果。
「いいねその考え」
 レナは意味が分かるようだけれど、どういう意味だ?
 最初から無理な話だということは分かっていたのだ。
 二人とも、まだまだ子供だね……とレナは内心で独りごちた。
 無視をされたと苛立ちを表に出したアキトトだがモーリスは隣の少女だけを見る。
「先ほど、陽菜乃とレナに確認を取ったところ快く承諾してくださいました!!」
「っ!?」
 立派な店に到着した。
 もし、下手なことを言えばこいつの逆鱗に触れるだろうからな。
「俺もよ」
 最年長だが、まとめ役には向かなかったらしい。
「うちはもともと共働きだったから過ごす時間が長くなって自然とな」
「そして後進教育補助義務により一年生の体育授業を補佐します!」
 そして、遂に核心へと手を伸ばす時が来る。
「あなたは俺にあのお二人の仲を引き裂けと言われるのですか!」
 陽菜乃は独り言のように独白を続けた。
「そうしてくれるとありがたい」
「それではさらば」
「アキト、女の子の扱いに長けてるでしょ?」
「はいはい」
「モーリスが困っているだろ?」
「じゃぁ明日の早朝」
「他人だからな」
「無理でございます!」
「そうかい」
「ついて来てくれ」
 彼のその反応が意外だったのか。
 俺のセットは直ぐに作って貰えたが、陽菜乃のは時間がかかるということで席に着いて待つことにした。
「まじですよ?」
「だなぁ……」
 しかも眉間にしわを寄せつつ。
「ああ、うん」
「……どうして?」
 彼らが打ち合わせに集まるのを待った。
 肌に触れたとは思えない感触が手の平に広がる。
 だから陽菜乃には、この現象を説明できるような言葉を持たなかった。
「心の中ではずっとこんなことを考えていて、とうとうお前たちを捨てた、クズなんだよ」
 突然の激昂の迫力に飲まれながらも言葉を返そうとするがたどたどしい。
「頭でも打ってたか?」
「乗っていくだろ」
「体は全然平気」
「さっきみたいな声か」
「簡単に言えばそうですわね」
 とても、とても眩しく可愛い笑顔でレナに手を振る陽菜乃。
 半球状の布が二つ、そこから二つの紐が縦と横に伸び、紐同士はホックで留まるようになっている。
 誰だって嫌だろう。
 首を傾げられてしまう。
「光汰よ!」
「結構です」
「依頼人は見捨てても、レナは守りきる」
「緊急事態が起きた」
「あ、ああ」
「カツちょっと減らしてほしい」
「確かに……」
 それはすごく気になる。
「あふっ……よしよし……よしよしなのよ?」
「お前はそれが分かっていてここに来たのか!?」
「いや、それはいいんだが」
「そりゃあ何もしてなければ手持無沙汰にもなるって」
「ただいま……」
 緊張からか、モーリスの額には汗が滲んでいるのを見つけてレナが、耳元に口を寄せてささやいた。
「……あ、ごめん」
「うん」
 突然の距離の変動と視界を覆う指に驚いて飛び退く女子生徒。
「完璧な出来!」
 そして、海から不規則に押し寄せる波が響く音。
 レナは陽菜乃で完全に俺しか見てないな。
「じゃあ、できるだけ早く戻ってくるから」
 そう言いながら陽菜乃も駆け出して行った。
 そして、二人は、陽菜乃を挟むようにして再度座った。
「その基準は?」
「おう!」
 何度も反芻する。
「承知した」
「こんな極上の美人が隣にいて他の女のことを考えるのは礼儀知らずだったな」
 ただ、どうもそのプロセスが頂けないかなとは思う部分もあるには有る。
 何とも残念だな、ドントマインド!
「陽菜乃もこれ、注意したほうがいいよ!」
 蹴られたことに流石の不満を感じたのか、二人へ厳しく問いただした。
 かなり頑丈な造りのようだ。
「うえ?」
「……何だ、あれ?」
「俺たちなんて大失敗だ」
「これでいいだろ?」
「――付け加えます」
「陽菜乃」
「電気?」
「顔、見せてあげて」
「すぐに向こうを出発させて貰えるように書いておく」
「情報に疎くて申し訳ない」
「見てた?」
 楽しそうに笑うアキトが、あぁそうだ、などと何か思い出したような顔をしている。
「合流する度に少しずつ良くなっていくから、辛いのは最初だけだ」
「名前見てなくて」
「……そうですね」
 陽菜乃の自室である。
「別料金になるよ」
「ただいま」
「これでどうかしら?」
 再び窓の外に視線を移す。
 どんなに強い陽や陰にもその中には反対の属性を持っており、それが。
 ついでに言うと、まだ昼下がりといった所だ。
「三名は周囲を警戒」
 もっとも計画実行のためには障害も伴う。
 激務、と言えた。
 え、ちょ、陽菜乃違うじゃん!
「確か、ここのはずです」
「あ、冗談ですけどね?」
 やめてくれ!
 と顔を寄せて話し合っている声が聞こえてきた。
 理解していた。
「ならいいか」
 違うんだ二人とも。
 手が届くところまできたら、モーリスは腕を掴んだ。
 理によって。
 まあそうだろうけどさ。
「!!!!」
「もう、げんけぁ」
「俺が全力で守るもん」
「いえ」
「……すみません」
「よくそんな調べたもんだねぇ」
「堅苦しい挨拶は要らないですよ」
「ほんとだな」
「お前は大人しくしていてくれ」
「やぁ……陽菜乃だめだよぉ……」
「そうそれ!」
「手出す気かい!?」
 俺の目に飛び込んだ光景は、恐ろしく穏やかな光景だった。
「飽きて、キレたようですね」
 それでも手にした。
 知っているはずだ。
 モーリスが出した指示も誰よりも意図を察して動いていたはずだ。
 今日は朝が早かったからな。
 それを思い出して、陸人はガバッと起き上がり、叫んだ。
 !
 強引なのは百も承知だ。
 そのため生徒の中には男女の仲を邪推している者達もいるがとんでもない。
「……スリスリクンカクンカフガフガフゴフゴ……」
「うそ!?」
「……」
 意味が分からないのもあるが、それ以上に学園の頂点に立つ男から吐き出された言葉とは思えなかったからだ。
「ただそうなるとそのための外骨格がまた必要になる」
 風が収まると、空中に巻き上げられていた土砂が降り注ぐ。
「来たにゃ!」
「他には?」
「ヘンだよね」
「じゃからお前が産まれるころに預かった」
 おふくろの心配は最早趣味なんじゃないかと最近思う。
「───お前、俺を探しにアキトの自然保護区に入ったろ?」
「はいっ」
 嫌味と皮肉まじりの視線と声が近づいただけで彼女は縮こまる。
「んまぁそりゃそうだよ」
「ウチの実家の関係でね」
「皆様方には捕虜となって頂く」
 畳みかけるなら今しかない。
 さばいていた上に、そういった輪に入り難い子供も誘い込んでいたりする。
 むしろ、少し押しに弱いところすらあった。
 多分、かなり。
 まあでも、こっちでの一時間はあっちではそれほど経っていないだろうし。
「ご案内致しますのでどうぞお入りください」
 あまり多くは説明しなかったが、アキトは概ね必要そうな物を買いまわってくれたらしい。
「腸詰めも食うか?」
 他の住人の迷惑など忘れ、モーリスはまどろみ始めていた。
 一体どれだけの作業が続くのか、心配になりながら、その場を離れるアキトに礼を言う。
「全く結構」
「陽菜乃ですから!」
 周囲も顔を強張らせながら緊張感に満ちた顔で彼を見据えながら。
 ただそう感じられるのも正式に参加、間近で見られるからこそ。
「今日の事」
「こちらのレジにどうぞ」
「ありがとうございます」
「ええと、名刺持ってきてたかな……」
 今後ともよろしくお願いします。
 ただ、これに関してはレナの冗談かもしれない。
「……一応、聞いといてやる」
 冗談ではない。
 そして。
 扉を開いた先に広がる狭い部屋と、安っぽいベッド。
「じゃあ、またな」
「ええ」
「人数迄もを覚えておいででしたか」
「モーリスに相談できて良かったです」
「俺が探してくるから」
「あっちから連絡が入るかもしれないからな」
 思っただけなんだから!
 そう言いつつレナは大きく頭を下げた。
「違うわよ」
「たしかに、それほど多い訳じゃないんだな」
「そうか」
「つまらないです」
 対策をとらなければ
 縋るような媚びるような目で俺を見上げる陽菜乃に俺も我慢が出来そうになくなっていた。
 そんな予感めいたことを考えていた。
「レナ、預かってやれ」
「いいえ、帰ってくる」
 俺に言って貰ってもという気持ちで言ったので、ハッとした表情をみせた女性店員は、直ぐにレナと陽菜乃に相対して謝罪の言葉を向ける。
「おや簡単な英単語だと思ったんだが?」
 その単語に、びくり。
 今まで聖女として、聖女のモーリスを通しての言葉でしか禄に人と話したことがない。
 金や宝石をふんだんに使用した派手な装飾品は見られない。
 不自然な影が目に映った。
 ならば明日はどんな目に合わされるか。
 みずみずしい肌の手触りで、ほんの少し、汗の湿り気を感じる。
「そ、そうだよねぇ?」
「どうしたの?」
 ドヤ顔うぜええええええ。
 第二の天使動画を期待して開いた俺が風邪を引く前に早く美少女を映せ!
 彼の身柄を狙っていた非合法な裏組織の突然の壊滅。
 一つだけならたいした問題ではない話もここまで集中すれば不可思議だ。
 …………。
 学園は無事レナが完全に買収出来たようで、それに伴って陽菜乃とレナ。
 決して話題を探して百面相をしてる彼女の横顔が面白いからではない。
 ほんとにほんとに?
「あまり待たせるとどこかに移動しちゃう可能性も!」
 いや、それは言い過ぎかな。
「配りなさいよね、アンタも!」
 体調は良好だ。
「何が何でも勝たなきゃいけない状況なんでね」
 そしてそうだとわかっているのに口がいうことを聞かない。
 どうすればそうなるのかと半信半疑に近い思いでさらに詰め寄る。
「ふむ、確かに」
「モーリス、おはようございます」
「もう、勘弁して下さいよ」
「うん」
「……さあ、小耳に挟んだくらいだからな」
「依頼です」
「タヌキに似てるよね」
「すみません、準備をしてもらって」
 蓋をしてキュルキュルとハンドルを回すと、ところてんが押し出されるようにして、ミンチ肉が出てくる。
 自らでも他にいいようはなかったのかと呆れてしまうがアキトはそれに。
 そんなことをまるで気にせずに日常的に、そして一方的に振り回した剛胆な人物。
「ぐぐっ……」
 で済みそうな気がしなくもないのだけれど。
「心配をおかけして申し訳ありませんでした」


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