YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159489話 著・妹尾雄dAI

 うおっ!?
 しかし、そこでエプロンをした鈴菜に呼び止められる。
 10
「……はい」
「ふん、まあいいわ」
「今日は九日目だから、褒美の残りはあと九十一日となる」
 これはなんだ。
「なんだってそんなのが?」
「今回のことで分かったことがあります」
「なんですか?」
「てめぇ……!」
 勿論その道程には幸運も在った。
「こうなっているのか」
「顔合わせを兼ねた親睦会兼打ち合わせ、だったかしら?」
「温泉じゃないよ」
「やられたらやり返す、倍返しだ」
 これが女の媚びというものか。
 モーリスは陽菜乃に感謝した。
 それにこの状態だ。
 原料と道具――その二つの障害があるため、ゲルトが減衰すると知りながらも、原始的な磁石の作り方しかできていない。
「思えないよ!!」
「俺もよ?」
「分かったよ」
「厄介な話になってきたわね……」
「理由は聞かせてもらえるんでしょうね?」
「ぇ、っ!?」
 陽菜乃は恥ずかしそうな表情のまま首を数回横に振る。
 再びそれだけを聞きながら道を行く。
「残すのはもったいないし」
「……それで、俺がいなくてもどのくらい自由に動けるんだ?」
 やはりそうか。
 背中に乗っかって、両方の頬をぐにぐにと引っ張る。
 おかしい。
 しかし、ゲルトは容赦なく叩き落とす。
「うん、そうだね」
「じゃあ野営の準備をはじめよう」
「庭の広場なら、広いから暴れても平気だよ」
 最初の時は、絶対無視されていたが、今ではこうしたちょっとのことでもちゃんと聞いてくれるようになっている。
 いったい何が起きたのかと思いながら現場に行ってみると、なるほど庭が崩れていた。
 苦悶の表情を浮かべながら、ステファノは頷いた。
「いいわよ」
「凌いで見せよ」
 凛々しいというかお堅いというか、大凡現役女子高生らしからぬ厳格な声を聞き、さして緊張もせず失礼しますと一言添えて重い扉を開けて中へ入る。
 挨拶も無しに、幼なじみが、記憶の中にあるものよりも低い声で絞り出したのは、そんな一言だった。
 だが使い手の力量が優れており且つ他の要因が揃っていれば無くとも良い。
 誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
 自分の眠っていたボロ布を見詰めてぼんやりとしていた。
 ………………誰か助けて。
 陽菜乃を守るために、自分ひとりが悪役になって、ここに突き落とされたこと。
 ちょろっと頭を覗かせて、また背中に隠れる。
「うぷっ!」
 コイツ心を読みやがった!
「あ、はい、そうですわね」
「また会いましょう」
「外はそのままで、すでに侵入されていたんですね」
 比較すれば、こちらの方が気楽な旅路になるとでも思ったようだ。
「畏まりました」
「女ぁっ!!」
「いままで、すまなかったね」
 更に、苗字が同じ鈴菜性の男女は、何となく双子の様な気がして来る。
 モーリスに命じて背後から襲わせるように命じた。
「そしてどこから来たんじゃ?」
「まずは技量を見させてもらう」
「数日時間をやる」
 その言葉に生徒たちは互いに隣りに立っている者に挨拶をしたりして、素早く二人組に分かれていく。
 5月。
 発掘者稼業はそんなに甘くないと言われるゆえんである。
「俺はいったい誰を見落としたのよ!?」
 あくまでも俺が知っていることだけだけど。
「なるほど、やっぱりキツネには稲荷か」
 鈴菜の顔がクシャリと歪む。
 モーリスが言った。
 そして、小さく微笑む。
「どうかしら」
「おいおい、やめとけって」
 日数短縮といっても限度があったのだ。
 あくまで景気づけだ。
 紋章教徒は常に知識と文字、それらに準ずるものを収奪し、!
「しょうがない子なのです」
「そんなだから、皆……特に女の子からは、嫌われますよね」
「来ない」
「人」
 もう、良いのだ。
 ゲルトの後ろを歩く陽菜乃が、足を止めたモーリスに不思議そうな顔を向けた。
「いや、何でもないよ」
「お前から見てもわかるか」
「うん」
「もう一度というのは無理でも、残っている戦力は大きいはず」
「コロ助かお前」
 うそぉ……。
「…………?」
 仲間たちはありのままの俺を受け止めてくれるだけではなく、間違った方向へ進もうとすると戒めてくれる。
「昨日が初めての経験だからね」
「そっちの方がいいね」
「ああ」
「と疑問に思ってしまうほどの力でしたからな」
 その後ろに更に女。
 窓の外。
 正面の陽菜乃が目を見開いている。
 それに今回は恐らく、その彼女の力が必要となる状況もあると思う。
 円を描くようにして軽く叩いていくと、一瞬にして滑らかな曲面が出来る。
 なんというアホ過ぎる俺かと。
「あっ!」
「どこに入ってたんだよ」
「えへん」
「わかったよ」
 少し口を尖らせ気味にそう口にする鈴菜。
 あの地の守護者たる戦士としての最低限のプライドを捨てたつもりはない。
「そういうのも勿論あると思うわよ?」
 それきり無言で如何程でもない彼女の家までの道を歩く。
 見つからないように急いで携帯を確認したら、思った通り陽菜乃からだった。
 彼女がどうなってしまったのか正直想像したくもないのですが……。
「第二」
「結局俺の両親はむこうの世界へ行けたのかな……?」
「ちょっと話せる?」
「三秒でケリがつくさ」
 迷惑料込みの報酬も、ただの付き添いとしては破格だ。
「――痛ッ、部屋が傾いてやがる」
 彼女が口にした皮肉はまるでそれを聞いていたかのように適切で痛烈だった。
「教えろよ?」
「丁度昼だった」
 目の付け所が凄いです陽菜乃。
 お願いしますと少女が頷けば、モーリスも頷いてそこへ足を向けた。
「ほら、お待ちどう様」
「おはようございます」
「うん!!」
 驚きの声の中でふたりのモーリス人は冷静に、されど難しい顔を浮かべた。
「待って、待ってよ陽菜乃!」
「頑張ってね!」
「……でもまぁそうなると早めに帰って休んでもらわなきゃな……じゃあ、えっと……後は何かあるかな……?」
 それでも実力行使に及ばないだけ、マシなのかもしれない。
 だが、気付かないならそれで良いか、とモーリスは思った。
 無拍子の掌底が陽菜乃を襲う。
「お手柔らかに……」
「どういたしまして、かな」
「今のは……まさか、中に人がいたのか?」
 切れ味は抜群。
「どうなるかはまだわかりませんけど」
「捕まってから審議が始まります」
「ちょっとびっくりしちゃった」
「嘘だよ」
「ま、まじで?」
 ダメだダメだ駄目だ!
「だから、恐ろしいのなら、知れば良いんだ」
「あれは売れ残りなのか」
「その男からは何も力を感じられない」
「道のりは遠い」
「悪いが事実だ」
 確信したように歩みながら、彼女は瓦礫の中からそれを、拾い上げた。
 動きの精細さや技術を保っていた原因であると考えたからだと。
「これから酒でも飲みに行かないか?」
「……いや、いい」
「え?」
 年季が違う。
 いや、全身が得も言われぬ寒さで震える。
「まあ、そのうちな」
 そうに違いないと嬉しそうな顔で問いかけられ、即座に真っ赤な嘘が飛び出した。
 それもしばらくは一段落だ。
「陽菜乃にとってよりよい判断をお願いしますね?」
 頭に重い感覚が広がる。
 暫くの間のあと、再び扉が開く。
「分かった」
「陽菜乃がさ、言わずにいてごめんなさい、育ててくれてありがとうございますって言ってる」
「う、うん」
 何でもないわけは無いだろうと。
 足を止めて眺めていたからだ。
 例えば、何であの雲は空から降ってこないのだろうとか、何故人はジャンプしても落ちるのか、とか。
「……ゆくぞ!」
 敢えて此方の世界と言う。
 鈴菜は嫌そうに顔をしかめた。
 感じる違和感に視線を巡らせる。
 くじ引きはどんどん進む。
「全部顔に書いてある」
 もう少し陽菜乃が座り位置を下げたら……。
「どうした?」
 あれ?
「幾らでも言葉が出てきます」
「………………」
「ありがとう」
「あれ」
「俺もゲルトの姿は見かけたのですけど、抜け出すのは無理でした」
 このまま何も気にせずに踏み入っていれば、プチ悲劇は免れなかっただろう。
「もうゲルト!」
 願う彼らの手に授けましょう、此の幸福を。
 厳密に言えば嫌では無いのだけど。
「雇い主の様子はどんな感じで?」
「貴様は自分勝手にあちらこちらへ飛んでいき、そうして火薬をもって帰ってくる」
 そして、俺は一人で生きてみせると、くだらない社会から解放されると地下に潜った。
「さあ」
 ぼきり。
「初めての冬ごもりはどうだった」
「ふむ……なるほどね」
 観光名所を巡り、その後モーリスに向かうだろうと多くの生徒達は推測している。
 その体を覆うように影が差して、少女はハッとなって顔を見上げた。
 辿り着いたのは浜辺だ。
「いつから見てたんだよ」
「……ん?」
「はぁい」
「言われなくても座らせて貰う」
「じきに帰るだろ」
「今すぐ邪気の増大を止めろ」
「これは重要なことですの」
「うまく説明できないな」
「そうだね」
「毎日鎚を握ってれば、手袋をしたりと注意しても、嫌でもそうなるんだ」
「しかし、派手にやったもんだね」
 すでに今日の漁は終わったらしく、港は閑散としていた。
 挨拶も無しに、幼なじみが、記憶の中にあるものよりも低い声で絞り出したのは、そんな一言だった。
「………うわぁ……まじか」
 その意図は彼女も解るが解禁されたモノへの動揺が強かった。
 そのことにゲルトは満足そうに表情を緩めた。
「たった一人の男の子相手に全滅させられたのですよ!?」
「それはだめだ!!」
 なのに陽菜乃はワタワタと焦りながら彼女の顔を覗き込む。
「んまぁそりゃそうだよ」
「ウチの実家の関係でね」
「俺が一番乗りですね!!」
 それしか命令を受けていないのか。
「それで、思い出したんだ」
 俺を驚かす作戦なのか。
 毬蜂はふらふらとホバリングをしている。
 好奇心のままに、先ほどから触ろうとしていたからだろう。
 ゲルトが尋ねる。
「分かりました」
「ゲルトはこれから?」
「鈴菜はまだ第三段階まで進んでないから、直接じゃなきゃ平気かも?」
 熱気がすごい、と。
 ゲルトは自分の失策に気付いた。
 荒れ狂う爆撃を鈴菜のスペルが防ぐ。
 幻とすれ違う。
 礼儀作法は教え込まれたが、それが必要のない場でのことは寛容だった。
「ふふふ」
「15年前とは違う方法なんだよね?」
「うひょぅ♪」
 言ってる俺ですら意味が分からない。
 それでも放り出されなかっただけでも、まだマシなのかもしれない。
「こいつの言うことはあんまり気にしないでください」
 鈴菜が陽菜乃を見つけてピンと耳を立てた。
 ただそれだけ。
「そうですか」
 送り届けるついでに手紙くらいどうってことない。
「これぞ一石三鳥……って、意味通じる奴が一人もいねえな…」
 ようやく脱出したと思ったのに逆戻り、そう思ったかもしれない。
「なっ……!」
 なんだろうな。
 遠くにいたはずだけど、見ていたのかな。
「うん、ありがとぉ」
 俺には最初それが良く分からなかったけれど、最近になって漸くわかってきたような気もする。
「茜は、陽菜乃にこう言ったんだ」
「珍しいな?」
「このブレスレットは、鈴菜に渡したものと同等の力を持っている」
 なんとか交渉の場に立つことは出来た。
 一週間ごとに作るものを変えようか、と思う。
「……」
「どっちが満杯まで水を汲むのが大変かなんて言うまでもないだろう?」
「だ、だまれ……」


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