YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159462話 著・妹尾雄dAI

 暴走後に限っていえば争いごとの仲裁に動いていることが多かったのだ。
 俺が尋ねると、レナは難しい顔をした。
 この猶予時間を攻撃に利用しない手はない。
 最後は廃人になる。
「ぁ、ぁぁっ…!」
「だけどこれじゃあ、何かあっても陰月の路近くへは絶対に逃げられないよな」
 この四人。
「……行くよ」
「え…あ、はい!」
「あ、うんと、午前中か午後すぐには到着するように行こう」
 アンデットの方がまだいい動きをする。
「あわわわっ」
「体術かよ、俺だって昔と比べりゃ、体術も上手くなったんだぞ?」
 ただ……相当に鍛えているであろう事は服の上からでも十分分かったし、纏って居る雰囲気を見ても間違いなく本物だけが纏うそれだった。
「役目は果たした」
「なんで陽菜乃が持ってて、俺にはくれないんだよ」
「ふっふっふ」
 無謀ではなかった。
 辿り着いた先で見たものは……。
「ちっ!」
「お前も女らしさとかそういうのを要求するのか!」
「わかったわ!」
「おはようさんっす」
「いたいた」
「いや、すっかり結晶の存在を忘れてた」
「これで残り2割7分か……節約できたほうだな」
 槍が到達する距離よりも遠い場所から放たれるのだから。
 伝言役をさせてしまった事と以前そんな約束をしていた事、この辺りに報いようなどと思わなければ良かったのだが。
「病院スタッフは今回容疑者から外すとしても、だ」
「勘かな?」
「ゲルトです」
「普通じゃねぇけど、ほっとくか」
「……」
「あぁ」
「……もう少し」
 弾丸が電撃を止めた。
 この可能性は考えにくい。
 先程の男は、やはり散歩でもするように先頭を歩み
「こっちは二十年以上やっているからな」
「かなり警戒されているな」
「そうです」
「ご謙遜を」
「良かった」
 その目的は人身売買組織の大口顧客、もしくはその仲介人との接触。
 両者を知る者からは言動の節々が似ているように見えている。
「カヒュ―――ッ」
「まあ、嬉しいわ!」
「次は取っておきの罠だもん!」
 ただ、陽菜乃はそれを薄っすらとではあるが気付いて居る。
 浩介。
「何やってんだ!」
 狗貌のくれた護符のおかげで、住民達に要らぬ被害が出る可能性は激減した。
 一瞬の戸惑いが生じて、二人が放った魔法を止めることができなかった。
「レナ……勿論ですとも」
 その雑念をおくびにも出さず、光の中に足を入れれば周囲から悲鳴。
「魔石にも、色んな効果があるんだったな」
「あそこが作戦の肝となろう」
「分かりました」
「ではその他の巫女は自由行動でよろしいですか?」
 浩介はあせっていた。
 熱でぐずぐずに溶けた大地を一歩一歩踏みしめるようにやってきた。
「……おいしい」
「右だ」
「まぁじっくり話し合うのもいいじゃろう」
 彼女自身の受けた扱いを考えるにそれ以外に表現しようがない。
「あらかじめ計画されていた後退ではなかろうかと思います」
「ハハハ……」
 飛び交う怒号。
 陽菜乃が驚きの声を上げた。
 いや、人質ならばまだ良い。
「あれから何気に部室へ行けてないんだよなぁ……色々あったし」
 何をするにも周辺の状況を把握しておかなければならない。
「浩介……」
「…どうした?」
 鬱陶しい木々の小枝をかきわけるようにして前に進むと、視界が開けた場所で少女が尻もちをついていた。
 浩介は腕組みをして天井を見上げて考え込んだ。
「いや……いや……」
「アンタらはまだ、あんまり敵を知らない」
「これでどうだ」
「…………っ??」
「レナ?」
「レナ、よせ」
「誰を?」
「明日からはどうするつもりだ?」
「はい」
「見回りをしていたら面白そうな会話が聞こえたので」
「悪いんだが…」
「あっ……」
「しかもレナ自身を陽菜乃が監督をするとして責任を負う立場にあったのです……ですが陽菜乃の家の生き残りは陽菜乃のみですから……」
 あっという間に十体を超える燈が世界蛇の周りを飛び交っていた。
「犯人じゃなく現象のカラクリ」
「それで?」
「言いたいことは他にあるか?」
 まさしくその一連の動作は、全てが息を飲むような美麗さだった。
「え?」
「そうか?」
「仕方なくなんだからッ!」
 もう魔力が切れてきているのだ。
 楽しそうな口元が問う。
「行くぜ」
 熱の影響で額に汗が募る。
「俺は、同じような経験が随分前ですけれど、ございました」
「ああ」
 浩介は、危険を感じ取り服探しを再開。
 だがそれが戦いの場にいた自分の心を奪うほどだとは思わなかった。
 じゃあ誰が?
「そうね……バイゼルンらしくなったと思うわ」
「なにか教われたのかい?」
「例の事件に関わりがあるのか!」
「その首飾りの名前は?」
「はい!」
 答えは、否だ。
 そこから解放された俺を待っていたのは、少しにやけた顔の三人だった。
「お待たせだよっ!!!」
 コンセプトとしては無茶苦茶だが一対一ではとてつもない脅威だった。
「浩介たちのぶんも何か作るからね」
 浩介たちも同じように進んでいくうちに、開けた場所に出た。
 それは今でも心に刺さっています。
 すでに指令は出ている。
 鍛錬が始まってからまだ数日なれどこれをずっとレナは繰り返していた。
「やるなら俺だけにしろ!」
 あれかな?
 魔導工学と既存技術の融合によってなされた補完現象。
 ――ドゴンッ!
「ええっ?」
 否、その程度の感覚で浩介は己が黒い魔力を解放した。
 入るやいなや、むわっとした熱気に包まれた。
 多少感覚に違いはあるが、慎重にしていけば、すぐに慣れる。
「わざわざ急所外してやったのにぎゃあぎゃあとうるさい奴だ」
「突然の訪問のお詫びはいずれ、また……」
 まぁ、だとしても、それで何故この身を救ったのかはよく分からない所ではあるが。
「あなたでも、ですか?」
 本当にそれでいいのか?
「何でございましょう!!」
 そう。
 喜色満面とした声をあげた。
 殴り殺すか斬り殺すか。
「レナ?」
 ゲルトは爆発を凌げるはず。
 ただ生来負けん気の強いレナに対して敵意を向けるというのは返って
 魔力強化が施された衣服を着ているゲルトであれば即死は免れるだろうが、骨の数本は覚悟するような一撃だ。
「――あ、終わりか」
 そんな二人を羨ましそうに陽菜乃が眺める。
 包囲して呑気に待つという事はしない筈だ。
「本当にお願いしますよ?」
「そういうことだな」
 その中の一人と目があうとニコリと笑いかけられ、なんとなく会釈をしてしまった。
「何してんだい、あんた」
「4個目だ」
「まぁ、見てれば分かります」
「戻る……」
 当然のことだと。
 持ってきた黒剣を右手に携えると、彼女に矛先を向けながら重心を低くして構えた。
「ありがとう、ゲルト!」
 陽菜乃は口を引き結んで表情を変えず、話しているゲルトに目を向けている。
 表立っては言えないことを、レナは笑いながら教えてくれたが、それは俺たちのことを信用してくれているからのことだろう。
「俺もレナから貰ったバ陽菜乃タインチョコは十三年分ぜんぶ取ってあるぞ?」
「眠れないのかしら?」
 受け止めた斧の刃を砕き掴むと、そのまま振り払った。
「恐らくはそのトラウマなんでしょうね」
「それもここエルツで作られた物かもしれないな」
「わかってるよ」
 だが、単純に。
 例年はそれで問題なかったのだが、今年は湧き出してくる妖魔の数が多く、その対処に苦戦を強いられている状況なのだ。
 レナは限界だった。
 ロクな意見が出るとは思えないが、それでもこいつらに聞くのは、得られる内容より意見を聞いたという事実が重要だからだ。
「……ぅ」
 それを支えたのはゲルトだった。
 細いですよ?
「浩介!」
「頭を切り落とせば動きが止まるぞ!」
 それで腕を一本確実に殺した。
 やがて、玉座の間の扉が開いた。
 酷い喧騒だった。
「というのもな、戦時報告書がわしのもとに上がってきたのじゃ」
「ご確認ください」
「では俺や楓にも敬語はおやめくださいね」
「そういう毛があったって事?」
「はああっ!!」
 随分と昔の、完全に忘れ去って居た出来事を瞬時に思い出し、今自身が浴び続けている暖かくも優しい光が、以前包まれたものと相違ないものだと気付いた。
「やっぱり海の底にある世界なのかな」
「ジャクリン」
 なんてこった。
「レナはからかうと面白いし本当にそうなったら解りやすい子だからね」
「話には聞くけど、動物とかに問答無用で好かれない人って本当にいたんだ」
 先に来ていた者達と同様の大型の鳥に乗った、若い男だった。
「頑張って覚えるっ」
 無害でありゲルトでは空気中に漂っているごく普通の存在ゆえだ。
「うふふふ」
「成長したのでございますね……!」
 故意が事故かは別として絶対ではないのは彼も分かる。
 何の影響も受けていないのは行ったゲルトの者とその後ろにいる少女達。
 前日に陽菜乃に一緒に連れて行ってくれと言っていたので、明け方近くにペシペシとおデコを叩かれ起こされた。
 張り紙にはこう書いている。
「何故貴方がここに居るんですか……」
 補うかのように合致してしまったがゆえに今まで交友が続いていたのであった。
 鈴を鳴らせたような声だった。
 次元を渡ろうにも、俺にはその術が無い。
「それにしても、喧騒がここまで届くとは……」
「そうか?」
 さすがだなとレナは思った。
 一応……というか、なんというか。
「遠泳みたいなもんね」
「いえ、それはいいんですが」
 そうなると犯人はそれぞれ別々なんじゃないか?
 また魔力が上がってしまった。
「うん、きれいになったね」
「建物も簡単に取り壊せそうだしな」
「フッ」
「いつも世話になっている、なんて言ってるのに」
 当然陽菜乃も無事だろうな。
「全く露骨では無かったですよ?」
 その言葉にしょんぼりした顔になった陽菜乃が今にも泣きだしそうになってしまったのを見て、俺は慌てて自身の言葉を否定しようとしたのだけれど……。
「モモぇッ!!」
 俄然とやる気に満ちてしまう。
「……浩介はやらせないッ」
「あい!」
 ご褒美である。
「迷惑ってなんだよ」
「まあ、はい……」
「可能です」
「あの時いたのが俺じゃなかったらあの場で死んでいたかもしれねぇぞ?」
「イベント始まったわね」
 危うく逃がして、台無しにするところだった。
「手持ちは無いが、代わりにこれで頼む」
 !
 そう口にしたレナは、陽菜乃の方を見やって発言しなさいと促す。
「わかった」
 ゲルトは即答する。
 概要としてはそんな計画を立てて聖地奪還を目指したのだ。
「レナ」
「ほらほら、元気出して!」
 ちょっ!
「それが言い伝えとして残っていてね」
「あ、そうそう」
「よく知ってるね」
 苦痛に顔をしかめながら、レナを見る。
「まっすぐですね」
 そんな浩介の腕を取って立ち上がらせた陽菜乃が、ぐいぐいと引っ張り始めた。
 さっそく行くのか?
 ゲルトはその無骨な印象を与える景色を見て、本当に自分に招集命令が届いたのだろうか、何かの間違いではないだろうかという思いが浮かびあがってきた。
 まるで今まで我慢をして来た反動かのように。
 一体何が有ったのか、いずれにしても行けば分かるだろう。
「……それ、どうしたんですか?」
 よくない兆候である。
「――揚げよ!」
「っ!?」
「レナも使えるよぉ!」
「何さ?」
「史料をあさってみます」
 そこでレナから発せられた声は、感嘆というよりも、歓喜の声だった。
 ただ前者が武器の側面が強く後者は日常品なためそも比べるのもおかしいが。
 挑発に乗った陽菜乃の魔力が変化した。
「誰も心配なんてしてない」
「一体それがどうした?」
「クヒッ」


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