YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159461話 著・妹尾雄dAI

「あの子がどうした?」
 梅干しも海苔もないが、仕方がない。
「会社に戻るつもりは有りませんか?」
 早朝。
 我ながら混乱している。
 覚悟はできている。
 どう反応していいか解らないという複雑な表情を浮かべていた。
「お前が作ったのか」
「じゃあ連絡だけ入れて置きますわね?」
「ひいっ」
「――ヒース?」
「レナ、始めてくれ」
「白湯をいただけますか」
「お前、奴隷だろ」
「でも、こちらの生活も楽しかった」
 パチンと扇が鳴った。
 依頼の内容に顎を掻いたその時、羊皮紙を持つ俺の手首が、強い力で握りこまれる。
 外傷はそれほどないはずだから、治りも早かったのかもしれない。
「権力者には弱いんだ」
「礼なら幾らでも――」
「どう思う?」
「試合開始」
「っ、え?」
 まるでワザとですか?
「……天賦の才だ」
「同時に新しい世界での活動……」
「――だったかな?」
 浩介の言葉にヒースは頷いた。
「俺もそう思います」
「大した情報は得られませんでしたよ」
 ふざけんな。
「そうだね……見たこともない君たちには、少し難しいね」
 古代語の研究をしていたはずだが。
「お前は大変だろうけど」
「何だっけ、あのエリーって人来てたんじゃないの?」
「エリー……さん」
「何だかおかしくて」
 細分化すればもっと詳しく分けられるだろうが、エリーは興味がないため調べてはいなかった。
「ううん、気にしないで」
「今日の夜には地元の名士が主催する歓迎会があるそうだよ」
 先程の喧騒は完全に無くなり、静寂が横たわる。
 真下は漆黒が広がっているが……底なしというわけではないだろう。
「あの時さ……何してるのか解らなかったって言ったじゃん?」
「うん」
「レナがあんな状態で、かえって気を張ってたのもあるんだよ」
 物欲はあまり持たない方、ただ身長についてはもっと欲しいと切に思う。
「でも俺も忙しいですよ」
 まずい。
「出発は?」
「変わらないものだな」
 その代わり、料理は一切できないようですが。
 だから、一番の原因は両親にあったのでしょう。
 もう最悪だ。
「ヒース……ええ、知っています」
「やあ、エリー」
 その背に声をかけ、ヒースは少女へと向き直る。
「あちらから登れますので」
「たはは」
 たとえ通話中でも、周囲の物音はきちんと聴き分けている。
「……はぁ」
「それじゃ、こちらの方が依頼を受けてくださるんですか?」
「へえ……レナ気付かなかった」
 ああ、嫌いだ。
 エリーが思案気に言う。
「今日……いや、昨日か」
 口にして、浩介はまた笑いそうになった。
 けど、今俺の隣にいる彼女はその時の愁いを帯びた顔ではなく、凜とした表情をしていた。
「すごい」
「そういうことなの」
 お前の言葉を借りて全てが解決するなら、何も悩むことはない。
 子どもは、痩せ細っていた。
「すぐに手配しておくよ」
 今は4月なので庭の花壇には多くの花が咲き乱れていてとても綺麗だ。
 ほっとして、思わず呟いてしまう。
 顎や鼻の輪郭も、目の形も。
 それらはヒースの持ち物だった。
「――そこまでです、レナ」
「それは結果論だ」
「ホホホ」
「試しに着てみるか」
「浩介!」
 ずるりとヒースの体が後ろに運ばれる。
 人の集団という壁が立ちはだかったのだ。
「質問の意味を分かりかねますが」
「弱点を狙うのは当然だ」
「午後の練習中に一度まで行ってみる」
「放して放して放して」
「巫女」
 鉄敷の上で、鉄敷を作る。
「雪が最後だと思います」
「……彼には活躍してもらってばかりだ」
「銭湯?」
 ただひたむきにやるしかなかった。
「ちしきときょうようってなんだろう?」
「妄想するなとは言わないけど、口には出さないほうがいいね」
「……あと十秒早かったようね……」
 いないのであるなら、走者の順番をお決めになってください!!
 しかも、燃料を共にして。
 第二の試練のようにならないように、じっくり考えて決めないと。
「あ、あの!」
 エリー達の会話だが。
「そうだ」
「あちらを通れば、必ず罠か待ち伏せがあった」
「長げぇんだよ」
「こわくないもん!」
「エリーいいですよね?」
 たぶん奥には自立人形なんかもいるはず。
「それってどうなの……?」
「いかがなさいますか」
「バカだよ」
「ああ、これを焼入れする」
 幼女がその部品を、気合と共に叩いた。
 非難する者がいないのは一定の理解と根底にある自分達の無力さゆえだろう。
 一方で申し訳なさそうな顔はしたもののその隙にとばかりに彼は。
 なんだかそんな気がした。
「食わぬ理由はあるまい」
 今こうして毛布にくるまり、ゆったりと眠気すら誘われる緩い揺れの中で大聖堂を旅立てるのは、何という幸運だろうと、浩介は思う。
 今日の放課後。
 だが、あれで最新?
「じゃあ、この二つください!」
 負けたような気分で顔を直視できないままぶっきらぼうにそう返す。
 それは客用に設置されていて、訪れた客をそこに座らせ、それ以上中に入らせないようにする意味と、製品の良さを誇っている。
 欠伸交じりの言葉は若干のやるせなさを含んでいた。
「クックックック」
「先日も思ったが、こんなに集まって何をするのだ?」
「俺は思います」
 身体が熱くなってくるのを感じる。
 だからこそ消したくないというのが俺の本音だったりもするのだけれど。
 纏う空気は俺達のそれよりもはるかに重苦しく、皆一様に張り付けた沈痛な表情はそれだけで彼らの現状を表しているようだった。
 なぜここでアイテムボックスを使用する必要があるんだ。
 既定の時間までに辿り着けばよいためかなり自由な行動が認められているが。
 それはピリピリしてしまうだろう。
「…………えっ?」
「…ともかく」
「たぶん、俺に会いに来たのっ」
「レナ、喉かわいた」
「はい、喜んで」
「そうだね」
 構わず卓の上に並べられていた皿の上から鳥の焼肉に手を伸ばし、さっそく口にするエリー。
 泣いた瞼を冷やして、髪を整える。
 しかしその人物を認めた瞬間、言い知れない不安に襲われる。
 しかし、これも無視してしまう。
 一学期の初め。
 結構感情豊かなのだ。
 天幕の入り口には大勢の人々が集まっている。
「ふふ、すごい田舎でびっくりしたでしょ?」
「はい!」
 これはと思ったら、いつになくレナは真面目な顔だった。
 !!
 心を読まれたことよりも、ヒースの言葉に感激を覚えた。
 それで確信する。
「そうであったか」
「あんた結構やりこんでるわね」
「まだこっちには」
「色んなこと気にして、決断が遅いのはいつもの話さ」
「らしい?」
「おふくろ、勘違いするな」
 すなわち、全身を覆う長袖のエプロンに、ブリムではなくほっかむり、そして口布。
「へえ、そうなんですか」
「あと……」
「うわあ、ありがとう」
「調べてみても良い?」
「この状態で捕まえたのか……」
 レナの疑問に、浩介は答える。
「分かりました」
「!!!!」
 ヒースが進み出て答えた。
 その、裏で。
 今の段階では、自由に飛行することはできない。
「今日は女子にもやってもらうからいいよ」
「そう遺産だ」
「まさか、何?」
「劇って?」
 ヒースが尋ねると、浩介は正直に首を横に振った。
「浩介こそ、普通の私服ですけど」
 うまく、出来ているだろうか。
「とりあえず疲れてないうちに奥まで行ってさぁ、無かったらどうせ戻って来るんだから、帰りに覗いてけばいいじゃん」
 ちょっと気になる言い方だ。
「十キロでも軽いもんだな」
「正反対の考え方をするのだな」
 それは初めての光景だった。
「あははっ♪いいねっ、書いちゃおっ!」
 誤解をとくのは、今となってはそう難しくないだろう。
「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞ皆さん中へ入ってください」
 ゆえに責任をもって管理し、使用するならば別段問題ないという意見がある。
「いやいや、そんなことが言いたいわけではない」
「それでもです」
「ヒースよ、我についてくるがいい」
「なら、言ってみろ」
「増えたよ?」
「俺は敬虔なセシナ教徒ですよ?」
「こっちにも協力してもらう」
「まあ、そのうちな」
「言葉を良く聞いていらっしゃるようですじゃ……流石と言いますか……」
 それに、レナ、お前にこんな所にいてもらっては困るのだ。
「そうでした……重ね重ね申し訳ない」
「ほれ、飲め!」
「と自分では思っています」
「ああ」
「俺には俺のやり方ってものがある」
「俺もそのままじゃいけないと思って、ブレスを圧縮する練習をしたんだ」
「曲がりなりにも冬レナの女だ」
 よく見れば、小箱の方もやたらと軽い。
 そして電流の痺れから普段の動きができない彼女はいいカモだ。
「くだらん」
「ちょっと散歩してくるから」
「開きましたわね」
「おはようございます」
「こちらは過去に例がないかもしれませんが」
「はい」
「もうドジは踏まないぞ」
 それについても申し訳なさそうに口にする。
「怒りを忘れるのも早いが」
 レナが叫んだ。
 入り口で全員身分証の確認をされるためか、一番列の進みが遅かった。
「はい、その方がこの方々の心情的にもよろしいかと」
「いやあ俺も知識は不足してるから助かった」
「うぅっ、ああっ…がっ!?」
 既視感を覚えるほど似通っていた言動がそこで完全に重なる。
 たどり着くまで掘り進めるには、かなりの時間と労力を要するだろう。
 箱に収められた石は確かに三二個ある。
「…………え……え、えええええぇぇっ!?!?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「心の友よ!!」
 これが人間だったら、鼻の穴を膨らませていたことだろう。
 早く乾かさないと。
 これでもよく分からないと?
「はい」
「偶然レナと手が触れたんだよね?」
「それとも……」
「まあ、おまえたち」
「それは楽しみだ」
「それじゃ、火の玉合戦開始だ!!」
 しかし、何だ。
 彼女は慌てて、口を開く。
「でも、俺は…」
「先にそこに連れてきておこう」
 彼らはあくまでも人なのだから。
「……何かあったらすぐに連絡をしろよ」
「…………いやいや待て待て」
 そう口にするエリーだけれど。
 良いのか?
「いいよ」
「おまえが浩介から借りて読んだ書物、あの内容はすべて忘れろ」
 すると。
 けれどレナは無言で首を振った。
「食べたくないものとかあったらちゃんと言うのよ?」
「ああ」
「浩介にも会っていない」
「そのつけみたいなものだ」
 言いながら、俺は足元の荷物を片付け始めた。
「ぐっ、むっ!」
「なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ……」
「負」
「あの……」
 俺のお土産をエリーは使ってくれている。


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