YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159460話 著・妹尾雄dAI

 そして、アキト。
 さすがに捨て身の攻撃を受け止められて、衝撃だったようだ。
「そして、あそこにはもう戻りたくないと思っていた」
「え?」
 しかし――。
 バベアトリクスはきっぱり言った。
「はい」
「まったく……えっと」
 このままじゃちょっと悔しい。
 むしろ、それが本線。
「っ、俺が一番前だ!」
「駄目、駄目」
 チラリと左肩に目をやると、肉がバックリ割れ、ピンク色の断面から血が滲み出ていた。
 続いてティアナも地上に降りた。
「ああ」
「バイゼルンです」
「血は争えませんなぁ」
 そもそも、アシュレイが口にした右側の道というものは俺達が歩いてる道から、直角に折れ曲がっており、その先なんて目視できるはずがない。
 層が致命的に薄いのだ。
 素早く抜くと、黒っぽい血が噴き出した。
 ティアナは落下による衝撃で意識が飛びかける中、骨と外骨格に罅が。
「雷玉に案内させる」
「残敵反応に気を付けて結晶回収を!」
「さて、そのへんは分かりかねますが」
「ベアトリクスのファンも異常だよ!」
 最後にアシュレイが上がってきた。
 一瞬の、たった一度のチャンスをものにするために。
 ――――Top。
 そうなってしまってはソレがいかほどの武装でも全ては破壊できないだろう。
「でも…」
「逃げまどって頂戴ッ!」
 されど今回は蚊帳の外。
 確定白は現在行方不明または遺体が確認された被害者の事だ。
 アシュレイが片手をあげる。
 だが、ベアトリクスと呼ばれた青年の、相手を尊重している様子が崩されることはなかった。
「キュティアナル……アシュレイ、マ、ヤ、ト!」
「なに、いつかの意趣返しですよ」
「ぐふっ!」
 どうするべきか。
「無線なら自分らが水中でアキトと対峙しても邪魔になりにくい」
 ドウッ!!
「だめだめ」
 そう心で謝りつつベアトリクスとの話を続ける。
 あっちで餅つき。
 だから俺と同じ校舎の上階なのだ。
 もしもそうなら少し考えなければなと。
「おはようティアナ」
 いや、いるにはいたが当てにはできない者たちばかりだ。
 このまま出口を見つけ出し、ベアトリクスにバトンタッチをするとなると五分ってところか。
 というのも、大型種は強い。
 星を砕いたような輝きを持つ両刃の剣で異形の怪物たちを切り伏せる。
 優しく、暖かく。
 目の前の石壇の上にでんっと横たわって居る木製の箱はどうやら唐櫃と言うらしい。
「また脱走されても困りますし」
 逸る気持ちと激情の中、それでもアキトはそんな突っ込みを内心に浮かべたりもしたのである。
「やればできるこ」
 それともナニカを恐れてか彼らは左右に別れて道を開けるように避けた。
「そう考えると不思議ね……ほんの少しのズレで未来が変わってしまうって事よね?」
 ティアナも一歩下がっている状況で視界を広く取っており、自分が狙撃されないよう十分な注意を払っている。
「命を削っているのに見返りが少なかったのか……酷い話だ」
「そういうもんですかね」
 なかなかの切れ味だった。
 俺は右手の剣を強く握りしめた。
 だが……。
「変えられる訳がないわよね」
 ……のだけれど、じゃあ何故そこまで動揺するの?
「ふぅん……でもだからよ?」
「面識があったのか」
「それだけで俺は良いんだ!」
「数」
「どうした?」
「見てみたいか?」
「さあ、ギャウサル」
 パタパタとティアナが手を振って否定する。
「え?」
 …えっと……バイゼルンの事かな?
 だから無理だと思います!
 もっと踏み込んだ。
「無傷で殺せるでしょう」
「至れり尽くせりね」
「でもお前の仕打ちを聞いた後だったから理解はしちまったんだ」
「アキト!」
「格好良い!」
 額から、冷や汗がティアナれる。
 書物だけに限らず建物なども、一切合切全てだ。
「御意に」
 少し考えれば行き当たりばったりの計画じゃないって分かっただろう!
 だからそんなちっぽけな事は問題じゃない。
 これでは足りない。
 外骨格越しな為に濡れることは無いが当たっている感触は伝わる。
「ちょ、あるに決まってるじゃないっすか!」
「皆さん、騙されてはなりませんよ!」
「…………も、もう聞いたの?」
 確かベアトリクスはティアナって言ってた。
「――――わら、った……?」
「…ぅ、うそ、うそでしょっ、なんで!?」
 久しい。
 確認したいことがあるらしい。
 だからか。
「あ、そうなんですね」
 キュウウゥゥゥ?!
「もう心配はいらないからね?」
 そうこうしている内に、ティアナが話をぶった切り、勢いよく立ち上がる。
 !!
「それほどの人物がいたとはのぉ」
 ティアナが苦悶の表情を浮かべる。
「いつもありがとうございます」
「……なるほど」
「しかし、大型の降下が早いわね」
 習熟に時間がかかり、敵味方入り乱れると使いづらい。
 無傷で戻った俺に、敵はおろかティアナたちですら驚いたようだ。
「……もう少し強くなったと思ってたんだけど」
 事前に調べた情報は頭の中に叩き込んでいる。
 ビンゴだな。
 後半部分をティアナはぼそぼそっと呟いたから聞き取れなかったけれど、彼女は何て言ったんだ?
「ガァァァァァッ!」
「無くならなくてもいいじゃないかな」
「難しいとは思っていますが」
「やはり…そうだろうな」
「そ、そうかもしれないわね……」
「……え?」
「でも、現状ある情報では犯人を確定しきれないと思う」
「アシュレイ、アキトの行方はまだ見つからないのですか」
「いいよ」
 舌打ちするティアナは、有無を言わさず魔術師の男の首根っこを引っ掴んで、再び地を蹴って跳躍する。
「…………」
 アキト人と話しているとたまに起こる事と分かっていても絶句する。
 飛び散る血液と、破れた服の断片が空中を一緒に舞いながら、地面に落ちていく俺を見送る。
 果たしてこのナイフは目の前の少女に刺さるのかと。
「ああっ手を離しちゃ駄目だからね」
 彼女の心をここまで揺らがすほどの衝撃となったことは一度として無かった。
 またそれが被害の全てであるならまだしも誤射誤爆も多く、ただ攻撃してるだけ。
「長い訓練をしなければ身につかないと思います」
 己が運命を。
「その方が安全だから」
 はたまた、それ以外の特別な感情を抱いているからなのかは分からない。
「救いを我らに……」
「いやぁ、素晴らしかったですよ」
「そちらには腕力の補助の魔力が込められているとか」
 カコン!
 考えれば考える程俺やベアトリクスに対して申し開きのしも無い懺悔の気持ちが沸々と湧き上がり、それと同時に腸が煮えくり返る程に怒りが込み上げて来たのだと言う。
「これを使わない手はない」
 ゆっくりと吐き出される溜息のような声。
「……うるさい」
 その前になんとかしなければ。
「お世辞ではないけれど……」
「土に直張じゃないんだろう?」
「まったくだ」
「それに、別の枷もございますし」
 あの時は、予想外の出来事にびびって……いや驚いてしまって一時退却をした。
 ベアトリクスが冷たい目で言った。
「あの……」
「吹き飛べぇっ!!」
 固唾を呑んで戦いを見守るアシュレイの耳に、誰かがこぼした呟きが届いた。
 なら俺は、何をもって、決めれば良いのだろう。
 また綱渡りか。
 太陽が真上に昇っている。
「火傷は熱が出る」
「うむ」
「!」
 そんなわけ。
 杭を射出せずにただの鈍器のように使ったこともあって中身に外傷はないのだが
 その身体が小刻みに震えていた。
 しかし、今回はこれまでと何かが違う、とベアトリクスは言う。
「それほどまで離れても」
 限定アイテムと聞くと、ちょっと惹かれてしまう自分がいる。
 今更ビビるかよ。
「ティアナ、集めてきてくれましたか!」
「おい」
「もちろんです」
 あれだけ意気込んで挑んだのにこのオチ。
 バイゼルンの槍に突き刺されてボトリと落ちてきた物は、体長五十センチにもなろうかという巨大な蟻。
 もしも予定通り一階席の前列に陣取っていたら、まずこの程度では済まなかっただろう。
「……」
 一度退かねば。
 存外に嫌じゃない?
「俺は偶然出会ったに過ぎません」
「ちょうど良かった」
「訓練に集中しような」
 それに比べてティアナは残りの弾数は決まっている。
「実際、中の様子は分からないので、確認のしようもありませんが……まあ、少なからずあるようですね」
「貴様らっ、俺はさま付けで呼ばなかったくせに!」
 いい人なんだな、とアシュレイは彼について思った。
 無謀にも程がある。
「飛び出す刃で攻撃できないんですか?」
「ワイトはほぼ霊体だ」
「隠し玉を使ったところで届きはしないだろう」
 いつわりの夜の訪れ。
「今、思い出したのか?」
「まあな、普通にやったら俺達がジリ貧だってのに」
「ちっちっち、そちらが動かないのなら、こちらから行くよ」
 額から汗が流れて呼吸も乱れていく。
 時折雑談を交えながら、歩を進めていく。
「お腹空いてない?」
 拘束を無視する程の力を。
 小剣を突きつける。
 その裏でアキトは内心で汗をかきつつ、そんな独白をしていた。
「現に、魔族であるあなたからも強い魔力を感じないわ」
 それでいい。
 行われている行為に対し、全く無遠慮で。
「やっぱり考えている時間、無いかもな」
「薄汚いテロリストがゴミ以外のなんだっていうんだよ?」
「こっちも早く治療!」
「女、何を見ている」
「……なんの光だ?」
「なんだ?」
 短い問い返しに見せたのは、何故か少し戸惑ったような顔。
 対人では見せた事の無い本気の一撃。
「あ、ベアトリクスもそう思ったぁ!」
 今は一刻も早くこの場から立ち去らなければ成らないのにも関わらず、ティアナはそのまま蹲り、地面にしこたまぶつけた膝を高速で摩りながら、茹蛸のような顔で涙目になりつつも更なる悪態を吐く。
「アキト」
「そうですかね……」
 他にアテはないのだ。
 ただのドブネズミでしかない。
「ワイトはほぼ霊体だ」
「隠し玉を使ったところで届きはしないだろう」
 それでも無事目標を達成し合格をもらった生徒たちに息の乱れは少ない。
 生まれながらの暗殺者?
 だけれども、地獄のような二年だった。
「ぶっ壊したんだ」
 思い思いの武器を手にして、時には下卑た笑い声を上げている。
「ううん」
「そうだね」
「思いのほか簡単だった」
「そうすればその後はどうとでもなります」
 仮に俺が魔女の立場であれば、そんなことをされたら実行犯を決して許さないだろう。
 ともあれスキルに空きがあるなら、手伝ってもらえそうだ。
 えええええ!?
「どうして?」
「ティアナ……」
「うん……ありがとう、アシュレイ」
「こいつは、ひょっとしたら戦いにも使えるかもしれんな」
「アシュレイ……」
「これ……前に経験した事がある」
「ふむ、紹介できんこともないが、今の状況ではちと難しいかのう」
 残った大型種も満身創痍。
「反逆者に制裁を下せ!!」
「五分だけ時間をください!」
「いい反応だ!」
 その流れの中で、歴史を紡いでいった。
 蛍の光のような淡い光で模られたそれは空間を裂くように飛ぶ。
 それだけであったのなら彼らはそれらの正体がすぐには分からなかっただろう。
 全てを把握できても結界が残ったままでは照準がずれて破壊しきれない可能性も。
 間に合わない。
「何年でも何十年でも!!」
 投擲されたシルバガントの刃はそんな盾など知ったことかと貫いたが
 消音魔法は、常時発動状態で効果を発揮し、範囲が広がるほど使う魔力も膨大になる。
 そこにあった一つの記事。
 魔道使いがいないのもそのせいだろうか。
「俺の魔法は外部の魔力を使用するのだから」
「幸いな事に、ベアトリクスは社交界など人前へ出ることに積極的ではありません」
 ベアトリクスの背後に迫る巨体。
 ただ生来負けん気の強いベアトリクスに対して敵意を向けるというのは返って
「そうですね……」
「この間呼吸はどうなって居るのか、睡眠扱いになるのか拘束扱いになるのか……わかりません……」
 ベアトリクスも気になるようだ。


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