YabAI Shinbun
『アーティフィシャル・バトル・クライシス』 第159458話 著・妹尾雄dAI

 その判断を彼はまったくもって間違っているとは思っていない。
 通れまいかと遠回りな移動をしてもそれを見越したかのように聖女と。
 生まれながらのセブンマルティナ保持者である彼女は広く浅くを地で行く魔導士だ。
 どれだけ時間が経ったのか、不意にエリーが動きを止めた。
 ヒースは、素直に尋ねた。
 だから、足で探すしかなかった。
「見事……」
「矢は三本しか残っていないぞ」
 毒気を抜かれた俺は苦笑しながら答えた。
「たしかにそうです」
「それはよかった」
 回避された場合も。
「おまえがか!」
 だが、いつものふわっとしたような、柔らかな雰囲気が感じられない。
 そうなればもう飛べない。
「でもこれは本当に、なんというか……」
「いや」
「ひとつ教えてあげよう」
「それこそ、それには及ばないという所でしょう」
 傍から見ればただ青く光る玉、しかしそれぞれにちゃんと意思がある。
 照準をつけて引き金をひく。
 その迫真の表情にはマルティナも驚いたようだ。
「すんませんっす」
「とっても空気が綺麗になりましたね♪」
「はい」
 狩られていく……で合ってるよな?
「俺はあの人のために死ぬしか道はない」
 大切な全ての存在と、ちっぽけな自分一人の命。
 護符にするための札を受け取った。
 鎧武者の背後には、駆けているマルティナがいた。
 ここから天幕が並んでいる中心部までまだ距離がある。
 そんなことは当たり前のことだろうといわんばかりの顔で。
「お前はそういうのどうでもいいとか思ってそうだよなぁ」
「───出てきなさい」
 唐突にエリーが告げた言葉。
「みんなが俺と同じくらい恵まれたスキルを持っているってことは、媚びへつらわれることも、僻まれる可能性だってないもの」
 左翼&右翼。
 ――ドッガン!!
 ――ズヴォッ!!
「死ねぇっ!!」
 それで動きを封じたと判断したのか頭目の式の顔がほくそ笑んだ。
 話が決まれば早い。
 マルティナから突っ込まれた。
「マルティナどうぞ!」
 思わずその言葉に瞳を揺らす。
 昨夜唐突に現れた高位の悪魔。
「遠く、遠くへ」
 まして名前など。
 そして口を開いた。
「理想だろ」
 多少の葛藤は出たがどの道これは苦肉の策。
 マルティナは、呆れたよう言った。
 正直に言うと、わかりやすい奴で助かった。
「本当に気をつけてね」
 一瞬の静寂の後、広間は騒然とした雰囲気に包まれた。
「魔法術式をもっと簡単な形にしてみせるわ」
 それはやがて空を覆うほどの大きさの女の姿を形取った。
「もっと大きく物事を考えろ」
 なるほど、この座標値から相手は攻撃してきたことになる。
「何があるというのだ?」
 過去に飛んで上空を見ると凄まじい速度で何かが飛んできた。
 俺の姿を見た瞬間だろう。
 そこには抉り取られた跡だけが残ることに。
 もうじきに日も暮れるだろう。
「あら?」
 空を見ればもう薄っすらと白みが差していた。
 いろいろ心配だ。
 当然、簡単にやられるつもりはない。
 真っ当な素性の者であれば、明かりくらいは持って歩くだろうから。
 少なくとも人間相手であれば、彼が後れを取るような事は滅多にあるまい。
「めぇあ」
「言葉によって意識を誘導して、その隙に他の目的を達成する」
「ありがとう」
「かかってくるがいい!」
「え、でも、マルティナの番……!」
「不合格にさせたくなかったから補佐役を提案したんだぞ」
 時間を無駄にするような気もするが、おそらく必要なことなのだろう。
「大聖教にすれば、俺たちは悪魔の手を握った大罪人みたいなもんだ」
「気が向いて、天気が良けりゃ来ればいいさ」
「…………?」
 丁度、安堵の吐息を吐き出した喉を、左手の剣で無理やりに捻じ伏せる。
 それをアシュレイが横から見ている。
「思い出した?」
 二体のワイトの動きが止まり、ヒースが叫ぶ。
 比べれば十分元気だ。
「うんっ!」
「俺の名前はアシュレイ」
 それ以前に答えを出して居たようなものだから、この言葉には彼女は反応しない。
「少し」
「確かに」
「やっぱり流言飛語ばかりじゃないですか」
 どうしようと慌てる少女にそこまで考えてなかったのかと溜息まじりの提案が。
 同時に右手で蛇腹剣を操って耐久組を押し潰そうとした機体を弾き飛ばす。
 目隠しに立っていたのであろう大斧使いが一歩移動し、その後ろで手に火球をこしらえたヒースが見えた。
 好機だ、とエリーは地面を蹴って駆け出す。
 鳴り響くのは爆炎と轟音。
 であった。
 高ぶった感情は、もう成りを潜めた。
 響は、そのうさぎに触れる。
「病院スタッフは今回容疑者から外すとしても、だ」
 こんな事は、何時以来だろうか。
「……う……お……っ」
「いや、謝らなくていいですよ」
「すでに本隊から命令が来ている」
「おお!」
「ええっ?」
 そう言われた。
「はっはっは!!」
「エリー!」
 その時だ。
「お前はそれを目の当たりにしてから考えろ」
「それでいい」
「なるほど、そういうことですか」
「せっかく来たんだし」
 いつ攻め込んできてもおかしくない力の入れようだった。
 俺は振り向いてエリーに紫水晶を手渡す。
「一人で押さえるのは無理だ」
 ……小さい手だな。
「いえいえ」
「その間に俺はエリーを解体する」
 しばし黙って互いを近距離で見合っている。
「仲間は、もっと居た……別の場所で襲われて……俺たちは、他の奴がやられてる間に、逃げてきた……」
 宿主の侮蔑が聞こえたのか。
「アシュレイ!」
「また女ぁ?」
 横幅は五十歩ばかり、奥行きは七十歩から八十歩ばかり。
 バイゼルン地帯にまで進むと永久凍土が待っている。
 このとき、マルティナは目を丸くして驚いていた。
 だが、そんな俺の気持ちを救うかのように、マルティナは少し前かがみになったかと思うと、俺の手をそっと握りしめた。
 ……現に凄く不安そうな顔を見せている。
 ふと嫌な考えが頭をよぎった。
「可能性は高いだろうな」
 そう、ひどくあっさりと答えた。
「どれも原形を留めてないわね」
「網、網!」
「ヒース――!」
 激しい戦闘をよそに、俺は本殿を脱出した。
 床に一滴でもマルティナしただけで、猛毒の煙が発生し数千人を殺してしまう薬品。
「おい」
「見れば分かるでしょう」
「お元気で!」
「俺もそうさ」
「エリーなら、魔石を見つけ出せるだろう」
「そして、あそこにはもう戻りたくないと思っていた」
 だとしたら、呪われているのはエリー自身だ。
 本来だったらついて行くべき。
 その襟に手を伸ばす。
 恐らく、そのはずだ。
 腕のブレスレットは、アシュレイから渡されたもの。
「ハハハハハ!」
「オイ、ヒース!」
「……できるのか?」
「当たり前だ」
「俺共の役目ですって言われてしまったわ……」
 驚くべき事に、現段階では膂力において上を行かれている様だ。
 俺はナイフのグリップを握っては緩めてを繰り返した。
「俺の目を見てごらん」
 恐らくは剣も鎧も上等な鉄を用いた品物なのだろうが、剣は細身で、鎧は派手さを追求した物ばかり。
 アシュレイは戯れのような空気で出し過ぎていた。
「それ、どこで聞いた?」
「そっか」
「それを懸命に欲しがる奴だっているんだからな?」
「マルティナ」
「えっへん」
「わざわざ奴らの縄張りに?」
 時刻は六時半。
「マルティナ」
「現役でございますか?」
「ふむ……しかし、俺だけが飲むというのもな」
 力関係とか。
 いけるのか?
「これで終わり」
 北は地中を掘って作物を埋めるらしいが、南にはその風習がなかったと思う。
「この箱」
 意外と素早い動きで浅く楔が打ち込まれる。
 それらを空想して。
 危険を感じたエリーだったが。
「その強さはあたし達が保障するわ」
 あとは全体の流れを制御するだけでことは足りる。
 それを否定するつもりはない。
「……でも」
「この前約束して頂いた、貴殿の力をここで借りたい」
「ここまで言えば分かるかしら」
「あれを見ていると、こっちが不安になってくる」
 ここで終わるわけにはいかない!!
「?」
 エリーもマルティナも振り返る素振りは一切見せず、互いに背を向け合うその姿はお互い譲歩するつもりが無い事を表す意思表示に違いなかった。
「……」
「こっちのセリフだ」
「あれは……勝てない」
 槍を飛ばしているのだ。
 だが。
 俺もコイツほど酷くはないと思うが、世の中結果が全てである。
 その弛みなき鍛錬を想像させる。
「フォ、フォトン?」
 そこから更に、一周しマルティナの番で。
「っ、貴様ぁっ!!」
「お似合いでございますよ?」
「ふむ……しかし、俺だけが飲むというのもな」
 こいつらは。
 そして、もっとおっきいと言ってくれても、ええんやで?
「つまんなくないよ」
 一言で言うなら文明レベルが低い。
「お前、この一年で別人のように弱くなった?」
 横腹、肩、腰。
 彼女が持つのは音速を超えた光の弾丸を放つ魔力使用型の武器だ。
「コレ」
「ケガさせなかった」
「かっこいいなこれ」
 子どもの頃から、いつもそうであったから、すぐにわかる。
 エリーのあとを俺が継ぐ。
「ふん……」
 俺の言葉に、彼らは鉄靴を鳴らしてそう応えた。
「だな」
「俺達が?」
 その驚きはいかほどのものだったのか。
「しかしそれは、アシュレイがそのように俺に教えたからです」
「狙え」
 マルティナたちの窮地を何故見過ごしになったのか、説明していただきたいですわ。
「ずいぶんと高尚なことするじゃないか……けどな」
「いい、感じ」
 水は透き通っていて、飲む事が出来そうだ。
 明かりを灯して本を読んでいる。
 冷たい水が喉を潤していく。
 ……成る程。
 よし、がんばろう。
「うん」
 次元を潜り抜け帰ろうとしたので、俺はそれを注意する。
 なに??
「あの子が消してくれた」
「ですが、考えてもみてください」
 マルティナ、置いて行ってごめん。
「え、じゃあなにか?」
 その時点でナイフは砕け、致命傷とまではいかないが傷は負わせられる。
 思わず立ち止まってそう呟く。
「…………」
「わああああ!?」
 これにさらに目を見開いて驚いてしまったエリーは変な悲鳴をあげた。
 エリーの攻撃方法を考えると仕方ないかも知れないのだが言わないわけにはいかなかった。
 二十分ほど歩きまわっていると、剣戟の音をエリーが聞きつけた。
 これは、鉄鉱石を鉱床から削ってできる割合よりも、はるかに高い。
「少し手を抜いたりはするけどな、ほぼ毎日と思って差し支えない」
 蛍の光のような淡い光で模られたそれは空間を裂くように飛ぶ。
 不意打ちや一撃必殺のバックアタックを得意とするヒースが、最初から相手と対峙している時点で力を発揮できないのは当然の話。
「はい、かしこまりました」
「絶対とは言い切れませんが」
 試合開始時刻は九時だ。
 当然、答えよう。
「やっぱり学生服じゃダメですか……」
「それでその人は?」
 後から来る腹の痛み。
 およそ人の発する音が何も聞こえてこない。
「さよなら」
 存在自体が。
 守ってあげたいとは、こんな女性に言うことなのだろう。
 何とも動機が不純でもあるけれど。


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